テレビの見せる色は本物の色か?

テレビとかPCモニタのようなカラーディスプレイは、いろいろな色を自由に表示することができる。
このブログではこれまで、「ディスプレイは赤緑青の光を混ぜ合わせていろんな色を作っている」というような説明をさらっとしてきた。今回は、なぜこんなことが実現できるのか?の話。

そもそも色とは何だろう。

世の中のいろんな物体はそれぞれいろいろな色をしているが、そもそもこれは何が起こっているのだろう。色の正体はなんだろう、ということが以下のページで説明されている。
色色雑学-楽しく学べる知恵袋 | コニカミノルタ
簡単にまとめると、色の正体は物体が反射している光の波長の分布である、ということ。赤い物体は赤に相当する波長の光をたくさん反射しているし、黄色い物体なら黄色に相当する波長の光をたくさん反射している。この様子は次のような図で示される。
http://konicaminolta.jp/instruments/knowledge/color/part2/img/img_03-16.jpg
引用元:色色雑学-楽しく学べる知恵袋 | コニカミノルタ
こういう感じの、「物体からの反射光に、どの波長の光がどのくらい含まれているか」という分布によって物体の色が決まっている。この「どの波長の光がどのくらい含まれているか」のことを光の分光スペクトルと言ったりする。これが色の正体。

テレビは分光スペクトルを再現して色を表示しているのか?

色の正体が光のスペクトルということは、ある物体が反射した光のスペクトルとまったく同じスペクトルをもった光をディスプレイから出してやれば、その物体と同じ色を再現できる、ということ。
また、あらゆる波長の光を好きな強さで組み合わせることができれば、どんなスペクトルでも自在に作れる。つまりどんな色でも自在に再現できる、ということでもある。
じゃあ、テレビなどのディスプレイはこれを応用していろんな色を表示しているのか? いろんな波長の光を自在に出して混ぜることで、いろんな色を自在に表示しているのか? というと実はそうじゃない。

テレビでもPCモニタでもケータイのディスプレイでも、カラーのディスプレイを虫眼鏡で見てみると、赤と緑と青の3色の光しか出ていないことが分かる。さっきのサイトの図みたいに、あらゆる波長の光が出ているわけじゃない。つまり、光のスペクトルをそのまま再現して色を表示しているのではない、ということが分かる。

テレビが色を表示できる理由

赤緑青の3色の光しか出てないのに、どうしていろいろな色を表示できるのか。これは人の目と脳が色を認識する仕組みをうまく利用しているから。
人の目には、3種類の波長の光に反応するセンサーがある。それぞれ、赤の波長、緑の波長、青の波長の光に反応するようにできている、と言われている。この3種類のセンサーの出力の比率によって、人はいろいろな色を認識している。出力がどういう比率だとどんな色が認識されるか、というのがあらかじめ決まっている。例えば、赤緑青のセンサー出力比が1:1:0だったら黄色が認識されるし、0.5:1:1なら薄めの水色、という感じで、目のセンサー出力比によって認識される色が決まっている。
ということは、あらゆる波長の光を使ってスペクトルを再現してやらなくても、人の目が持つ3つのセンサーの出力比さえ自在に操ってやれば、人にいろいろな色を認識させることができる、ということ。センサーの出力比を自在に操るには、それぞれのセンサーに対応させた赤、緑、青の光を、見せたい色に応じた比率で混ぜたものを人に見せてやればいい。
脳は3つのセンサーからの出力を受け取るだけなので、その大元があらゆる波長の光を使ったスペクトルなのか、赤緑青の3つの光だけを混ぜたものなのか、区別することができない。そのため、赤緑青3色の光の混ぜ合わせたものを見ただけで、いろいろな色を見ているのと同じ感覚を得ることができる。この赤緑青の3色が「光の三原色」というやつだ。

カラーディスプレイはこの仕組みを使って、人にいろいろな色を認識させている。言ってみれば、いろんな色を画面に表示しているんじゃなくて、赤緑青の3色の光を使って人の目のセンサーを自在に操っている、という感じ。ディスプレイは、人をいろんな色を見た気にさせているだけで、本当の色を再現しているわけじゃない。目の仕組みを利用して、見ている人をだましてるようなものだ。*1

まとめ

「ディスプレイは赤緑青の光を混ぜ合わせていろんな色を作っている」というのがどういう意味なのか、というのを説明してみた。ディスプレイというのは、人が色を認識する仕組みをうまく利用した、よくできたシステムなのである。

おまけ

人の目が持つ3つのセンサーの出力比で色が認識される。ということは、光のスペクトルが3つのセンサーで感知されてはじめて「色」になるわけで、それまではたんなる波長の異なる光の集まりでしかない。光には波長があるだけで色なんて付いてないのである。さらに言うなら、3つのセンサーの出力もただの信号でしかなくて、これが脳で処理されてはじめて色として認識される。つまり、色というのは物理的に存在しているものではなくて、人が脳内で作り出してる幻だ、といえる。人が見ているカラフルな世界は実は存在してない。じゃあ、人が見る前の世界は一体何なのか?、とか考えるとなかなか不思議な話である。




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*1:でも、ディスプレイとしてはそれで十分な色再現性能が得られるなら何も問題ない。あらゆる波長の光を出さなくても、3色の光だけでいろんな色が再現できるなら、そっちのほうが安上がりだし。

4原色テレビの本当の特徴

クアトロンという名前でシャープが売り出している4原色の液晶テレビ。これにどんなメリット、デメリットがあるのか、4原色という技術の特徴について改めて考えてみる。

4原色のメリット

まず、主なメリットは色再現範囲の拡大と省エネ効果の2つ。

色再現範囲が広がる

普通のテレビというかディスプレイは赤緑青の3原色で成り立っている。ひとつの画素が赤緑青の3つに分かれていて、それぞれの明るさを制御して、混色によって様々な色を作っている。これに、4つめの色として、例えば黄色やシアンを追加することで色再現範囲を広げることができる。普通黄色は赤と緑の光の混色で再現するが、この黄色よりも鮮やかな黄色を加えてやると、3原色だけの場合よりも黄色方向の色再現範囲を広げられる。色再現範囲が広がると、それまで表示できなかったような鮮やかな色が表示できるようになる。

省エネ効果がある

液晶の場合は、追加する4つめの色を黄色や白にすることで省エネ効果が得られる。3原色のテレビは、赤緑青の3原色を混ぜ合わせることでいろんな色を表示している。液晶テレビのバックライトは通常白色なので、カラーフィルタを通して余分な光をカットすることで赤緑青の3色の光を作っている。このとき、バックライトの光に含まれている波長のうち、赤緑青以外の成分がカットされてしまうので、その分の電力が無駄になっている。原色に黄色や白を加えると、今までムダになっていた光を利用できるようになるので、表示の輝度を上げることができる。輝度が上がるということは、同じ輝度を表示するための電力が少なくて済むのと等しいので、省エネ効果が得られる。

4原色はいいことばっかり?

4原色には、色再現範囲の拡大と省エネの2つのメリットがある。ではデメリットはどうだろうか?

まず、4原色にすることで、赤、緑、青の原色を表示した時の輝度が下がってしまうという弊害があると考えられる。3原色の場合はひとつの画素を3つに分けて、赤緑青に割り当てている。4原色になるとひとつの画素を4つに分けて赤緑青黄に割り当てることになる。なので、3原色に比べて1色分に割り当てられる面積が小さくなる。面積が小さいと光の量が減るので暗くなる。よって、赤、緑、青の原色を表示しようとすると、3原色の場合に比べて輝度が下がってしまうはず。
黄色を追加することで色再現範囲が広がるというのは、黄色の彩度がより大きくなる方向に、色の再現性が拡大するということ。一方、赤緑青の輝度が下がるというのは、赤緑青の明度が高い色が表示できなくなり、色の再現性は縮小してしまうということ。言い換えると、赤緑青の明度を犠牲にすることで、黄色の彩度を向上させた、ということ。このように、実は4原色とは色の再現性という意味で純粋に拡大したわけではなく、鮮やかな黄色と明るい赤緑青とのトレードオフになるはずだ。
なお、4原色の色再現範囲を色度図で表した場合は、トレードオフとは分からず、純粋に色再現が拡大したような図になる。これは、色度図は色の輝度を切り捨てて色情報のみを扱うので、明るさ方向の変化が図には表れないから。

上記のような理由から、単純に4原色にしてしまうと、赤緑青が暗くなる弊害が目立ってしまう。クアトロンの場合は、1画素内の赤緑青黄の面積比を工夫することでこれに対処していると思われる。具体的には、赤と青の面積を緑、黄より大きくとっている。ただこれもトレードオフで、黄色が小さいということは色再現範囲の拡大効果も小さくなるということ。結局は鮮やかな黄色をとるか、明るい赤青をとるかのバランスを面積で調節しているだけなので、この工夫によってトレードオフが解決するわけではない。


また、黄色が小さくなることで、省エネ効果も小さくなってしまうと考えられる。黄色の光を有効利用することで省エネ効果を達成しているが、1画素内の黄色の面積が小さくなれば利用できる黄色の光も減ってしまうからである。

赤緑青が暗くなるのを、バックライトの輝度をあげることで対応することも考えられるが、それでは省エネ効果が得られないのと、逆に白や黄色の輝度が高くなりすぎてアンバランスになる、という問題もあるだろう。


これ以外に、信号処理面でもデメリットがある。映像信号は3原色で構成されているので、放送にしろパッケージメディアにしろ、映像には赤緑青の3つ分のデータしかない。これを4原色のテレビに表示するためには、赤緑青3色のデータから赤緑青黄4色のデータに変換する必要がある。この変換がうまくできなければ、色の違和感が生じてしまうことになる。

あとは、液晶パネルの駆動面でのデメリットとして、ドライバ、配線の増加がある。3原色の場合は1画素あたり3本の信号線があれば駆動できたが、4原色だと4本必要になる。また、単純に考えてドライバのチャンネル数も4/3倍に増えるので、その分コストも増加してしまう。


そもそもテレビというのは赤緑青の3色で再現するように考えられたシステムなので、それを4色に増やそうと思うといろいろなところに無理が出てくる、ということだと思う。

まとめ

というわけで、4原色にはメリットもあるがデメリットも当然ある、と考えられる。
色再現は黄色の鮮やかさと、赤青の明るさのトレードオフだし、4原色にするためのコストアップや回路の複雑化などもあるはずだ。
技術というのはメリット、デメリット両方分かったうえで使わないといけないと思うので、こういう事を考察してみた。4原色という技術自体はとても面白いものなので、それを否定するつもりは無いけども、テレビという製品に落とし込むといろいろと難しい面もあるでしょう、ということは言えると思う。

参考

クアトロンの何が新しいのか - あんだあどらいぶ
色度図について(xy色度図とu'v'色度図) - あんだあどらいぶ




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フラット化する世界で生きていく方法

フラット化する世界という本がある。自分では読んだこと無いのだけど、読んだ人から聞いた話では、経済がどんどんグローバル化していくので、物も人も世界レベルでやり取りされるようになる。そうすると、労働に対する対価が国によって違うということがなくなっていき、同じ仕事に対しては同じ報酬が支払われるようになる。仕事が同じなら日本人でも中国人でもインド人でも同じ給料しかもらえない、ということ。(聞いただけなので、ほんとにそういう内容かどうかは分からんけど、たぶんこんな感じ。)


こういう世界が本当にくるのかどうかは分からないけど、もし本当になるとすると、われわれ日本人は仕事を巡って世界の人々と競争しなきゃいけないことになる。日本人は人件費が高いのでだいぶ不利だ。日本人と同じ仕事ができる中国人やインド人がいて、そっちの方が人件費が安くて低コストということになれば、日本人に仕事頼むより中国人インド人に頼もう、っていう流れになっていく。


こういう流れは実はもうはじまってる。例えばiPhoneアメリカの会社が作っているけども、実際の製造業務は中国の会社がやっている。iPhoneを組み立てる仕事はアメリカ人に頼むより中国人に頼んだ方がいいってこと。日本の企業でも、海外で販売する製品は現地で製造しよう、っていう流れがもうあるし、逆に日本で販売するものでも海外で組み立ててるっていう例ももうある。日産のマーチとか。日本人に頼むより、海外に工場建てて現地の人に組み立てを頼む方が安いから、どんどん仕事を海外に出してしまう。今は製造だけを人件費の安い国に委託してる感じだけども、将来その国の技術力が上がっていったら、製造だけでなく、研究、開発、設計もそっちでやってもらおう、っていう感じになっていくかもしれない。こんなふうに、フラット化した世界では人件費の高い人たちの仕事は、同じスキルを持ってて人件費の安い人たちにどんどん奪われていく。


サラリーマンっていうか、会社から給料をもらって働いている人は、労働力を会社に売っている、と考えられる。個人が労働力を商品として会社に売っているわけ。で、同じ商品を売っているなら、誰だって安い方を買おうとする。同じ労働力を売っているなら、安い方が選ばれるのは、まあ、当たり前のことかもしれない。IT化が進んでいるので、海外に仕事を頼むハードルも昔に比べてだいぶ下がっているだろうし、会社からしてみればわざわざお金のかかる日本人に仕事を頼む必要もなくなってきているのかもしれない。



そういう世界で日本人みたいな高給取り(新興国の人々に比べれば)が生き残っていこうと思ったら、どうしたらいいか。
ひとつは新興国の人たちには真似できない、高いスキルを身に着けること。他にできる人がいない仕事なら、多少高くてもできるひとに頼まざるを得ない。要は、スキルで自分を差別化すること。高度な技術力とか知識を持っているというのがその方法になる。そういうのがなくても、日本語ができるというスキルを生かして、日本人向けのサービス業に従事するとかもありかな。
もうひとつは、自分が安い労働力を使う立場にまわること。要は経営者側に立つっていうこと。安い労働力を生かして自分の事業の利益を稼げばいい。ただ、自分で事業を立ち上げて海外の労働力を使って儲けるって相当ハードル高いけども。

国としてできる対策としては、海外で製造された製品に高い関税をかけてしまうとか、外国人に仕事を渡せないような法律を作ってしまうとか、そんなことだろうか。けど、いまどきそんなことをやっていると企業の競争力がどんどんなくなっていって、結局日本企業が海外企業に淘汰されてしまうよね。


どういう生き方を選ぶかは個人の自由だと思う。まだ他にも方法はあるかもしれない。けど、昔のようにただ一生懸命働いていればみんなそれなりに幸せになれる、っていう時代は終わってしまったのかと思うと、どうにも切なくなってくるなぁ。




色度図について(xy色度図とu'v'色度図)

昨日の記事を書いていて、メーカーによって使ってる色度図がちがうなー、と思った。色度図の違いについて頭の中にあることをメモ代わりに書いておくことにする。

ディスプレイが表示できる色は、世の中に存在する色の全てを表示できるわけじゃなくて、ある程度の範囲に限定されている。その範囲は色度図の上にディスプレイの原色をプロットして、その点を結んだ領域として表すことができる。ただし、このとき使う色度図にはバリエーションがあって、どれを使うかによって図の上で色の範囲の見かけが変わってくるので注意が必要。
よく使われる色度図には、座標軸にxとyを使うxy色度図と、座標軸にu'とv'を使うu'v'色度図がある。

xy色度図

xy色度図は、こちらの図のようなもの。
http://av.watch.impress.co.jp/img/avw/docs/385/668/rt13.jpg
引用元:【西田宗千佳のRandomTracking】開発陣に聞く「AQUOS クアトロン 3D」に込めた工夫 - AV Watch
この図の描き方を簡単に説明すると、まず色をXYZ表色系で数値化して、X、Y、Zそれぞれの値をX+Y+Zで割って正規化してx、y、zとする。このxとyの値をグラフ上にプロットすれば、xy色度図ができあがる。ちなみに、正規化してるので輝度の情報は無視されて、純粋に色の情報だけを扱うようになっている。明るさは違うけど、彩度、色相は同じ、と言う色は、同じ点にプロットされる。色度図というとこのxy色度図が一番よく使われてきたと思う。
ただし、xy色度図には欠点があって、それは色によって座標のスケールが違う、ということ。ある2色の色の差がどの程度あるのか?は、色度図上でその2点間の距離として表される。ところが、xy色度図ではそのスケールが色によって違っているので、例えば色の差が同じでも、赤に近い色は色度図上での距離が近いのに、緑に近い色では距離が大きく表示される、ということが起こる。たとえて言うなら、世界地図でロシアとか南極大陸が、他に比べて大きく描かれるのと同じようなもの。

u'v'色度図

u'v'色度図はxy色度図の欠点を解消するために考えられたものである。
u'v'色度図は、こちらの図のようなもの。
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080306/pana2_15.jpg
引用元:松下、“デジタルシネマに迫る”プレミアムVIERA「PZ800」
xy色度図は色によってスケールが違っていたので、これを色によるスケールの違いがなくなるように補正したものがu'v'色度図である。補正は座標軸を変換することで行われる。u'v'色度図を使うと2色の色の差が、色度図上の距離としてほぼ正確に表示できるようになる。色の差が均等に図示されるので、均等色度図と呼ばれる。最近は色度図というとこっちが使われることが多いような気がする。

色再現範囲の違いを色度図で説明するときには

以上のような特徴があるので、ディスプレイによる色再現範囲の違いを色度図で説明するときには、u'v'色度図を使うべきだ。
xy色度図だと、緑に近い色どうしの色の差は、赤に近い色どうしの色の差よりも誇張されて表示されるため、緑方向の色再現範囲の拡大などは、実際よりも見た目に大きく表示されてしまう。これだと色再現範囲の違いが、不当に誇張されてしまって、正しい判断はできないだろう。
ただ、ディスプレイの色再現範囲がより大きくなっているように見せるために、あえてxy色度図を使って説明する、ということもできるように思う。フェアなやり方じゃないだろうけど。

参考

色彩科学ハンドブック
CIE XYZ表色系(5): uv色度図




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クアトロンの何が新しいのか

最近、アクオスのCMでクアトロンをアピールしているのをよく見る。「金色の輝きが美しいです」「あ、ごめんなさい、今までのテレビでは…」っていう感じの、今までのテレビを持ってる人にとってはだいぶ挑発的なCM。あと、「4原色で、テレビが変わる」っていうキャッチコピーも使ってる。
クアトロンの何が新しいかというと、いままでのテレビが赤緑青の3原色だったところを、黄色を追加して4原色にしたっていうところ。なのだけど、どうしてそれでテレビが変わるほどのインパクトがあるのかは、あんまりよく分からない。
というわけで、クアトロンの4原色の意味について考えてみる。

4原色の目的

クアトロンの4原色の目的は、色再現範囲を広げることである。CMでそう言ってるんだから、そのはず。
クアトロンのCMでも言っているけれど、4原色にすることで金色がキレイに表示できるようになる。これは、今まで赤緑青の3原色だったところに黄色を追加したことで、色度図上で黄色方向の色再現範囲が広がるから。色再現範囲については前に記事にしてみたが、簡単に言うとディスプレイが表示できる色の範囲のこと。これが広いほど、同じ赤や黄色でもより鮮やかな色が表示できるようになる。
ちなみに「金色」は黄色に光の反射を加えて金属っぽくしたものなので、鮮やかな黄色が表示できるということはつまり、鮮やかな金色が表示できる、ということ。
この、色再現範囲が広がるということを指して、「4原色で、テレビが変わる」と言ってるのだろう。たぶん。

どうして4原色なんですか?3原色じゃダメなんですか?

ところで、色再現範囲を広げる方法は4原色化することだけじゃない。実は3原色のままでも可能だったりする。
以前こちらで記事にしてみたけども、原色の純度を高めることで、3原色のままでも色再現範囲を広くすることができる。原色の純度=鮮やかさを増すと色度図上で赤緑青の3点を結んだ三角形が大きくなるので、より広い範囲の色が表示できるようになる。
で、ちょっと前までは、色再現範囲の拡大といえばこの3原色の鮮やかさを増す手法が主流だった。たとえばシャープはRGB3色タイプのLEDバックライトでこの手法を導入したモデルを発売していた(シャープ、“メガコントラスト”の最上位「AQUOS XS1」)。また、ソニーも蛍光管バックライトで原色の純度を高めて色再現範囲の拡大をやっていて、ライブカラークリエーションと呼んでたりした。パナソニックもプラズマで同じようなことをやっていた。その色再現範囲はプラズマだと例えばこのページにあるような感じ。この図によると、2年前のモデルのプラズマで、黄色の領域はほとんど全部カバーできている。ソニーやシャープのは色度図見つけられなかったけど、たぶん同じような感じだったと思われる。
というわけで、3原色のままでも鮮やかな黄色の範囲をカバーするところまでRGBの原色の純度を高めれば、4原色と同じ鮮やかな金色を表示することは可能だ。決して「4原色だからできた」ってわけじゃない。

4原色で、テレビが変わる?

以上のことを考えると、クアトロンは「4原色にしたからこそ金色がキレイになった」わけではなくて、「金色をキレイにする手法の一つとして4原色を選んだ」と言うほうが正しい。CMで言ってる「今までのテレビでは…」っていうのも、シャープ自身が3原色のままで色をキレイにしたテレビを以前発売していたことを考えても、ちょっと違うんじゃないの?と思う。
と考えると、これらのキャッチコピーやCMは技術的な根拠があるというよりも、マーケティング上の戦術として言ってるんじゃないか、という気がする。クアトロンに「いままでの液晶テレビとは決定的に違うんです」というイメージを持ってもらうために言ってるんではなかろうか。
こういうマーケティングは韓国サムスンが、液晶テレビLEDバックライトを搭載したときにやっていた。サムスンのテレビは日本では売ってないけれど、海外では、液晶テレビLEDバックライト搭載モデルを「LED TV」と銘打って、今までの液晶テレビとは別物だ、というイメージを持たせていた。こうすることで、「LED TVは最新の薄型テレビ。液晶はもう古い。」というような印象を持たせて、イメージ向上に成功している。実際何が違うかといえばバックライトがLEDに変わっただけで液晶TVであることに変わりは無いのだけど、マーケティングによってまったく新しいTVであるように見せている。
シャープもサムスンと同じように、クアトロンをいままでの3原色のテレビとはまったくちがう、新しいTVとして位置づけてイメージ向上を図っているんじゃなかろうか。

まとめ

色再現範囲の拡大は、別に4原色にしなくても可能である。技術的には4原色を商品化したのはすごいことだと思うけれど、それによって生み出される価値は別に新しいものじゃない。正直、4原色にテレビが変わるほどのインパクトがあるかというと、微妙な気がする。マーケティング上そういうアピールをしているだけかな、という印象。まあ、こういうアピールの仕方もありだとは思う。けど、色再現範囲の拡大という他社もできていることを「シャープにしかできません」みたいな言われ方をして、他社は黙ってないんじゃないかなぁ、と思うのだけど…。

参考

シャープ、“4色革命”の「AQUOSクアトロン」を7月発売 - AV Watch




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テレビ電話が普及しない理由

iPhone4が発表されたとき、テレビ電話機能が搭載された、ということがちょっと話題になっていたように思う。日本のケータイにはずっとまえからテレビ電話がついてるけど、誰も使ってない。何をいまさら、という感じで。

テレビ電話というものは、けっこう昔から未来の技術として予想されてきてる。実際、SF映画とかアニメとか、そういうのにはよく出てくるように思う。で、現在では技術的にはとっくに実現できている。しかもモバイルで。
ところが、なかなかテレビ電話を使う人が増えていかない。いざ実現してみたらあまり使いたいと思う技術ではなかった、という感じかもしれない。そんなわけで、普及していく気配もぜんぜん見えない。

その理由は、人々がコミュニケーション技術に求めている方向性が、テレビ電話とはまったく逆だからだ。

コミュニケーション技術の進歩

人々がコミュニケーション技術に何を求めているか?を考えるために、技術の進歩を振り返ってみる。

昔々、まだ何のコミュニケーション技術も存在しなかった頃は、誰かに何か伝えたいと思ったら、直接会って話す以外に方法はなかった。直接会わなきゃいけないっていう壁が存在してたので、今まさに目の前にいる人としかコミュニケーションできなかった。
手紙が使えるようになると(これを技術って言うかは微妙だけど)、まず距離の壁が取り払われた。相手に直接会わなくてもコミュニケーションができるようになった。コミュニケーションの対象が目の前の人だけだったのが、離れた場所にいる人にまで広がった。その代わり、時間がかかるっていう新たな壁もできた。
電話が発明されると時間がかかるという壁も取り払われた。離れた場所の人とリアルタイムに話ができるようになった。でもまだ、電話がある場所にいないと使えないっていう「場所」の壁は残ってた。
ケータイが登場すると、場所の壁もなくなった。自分も相手もどこにいようと関係なく、リアルタイムのコミュニケーションが可能になった。コミュニケーションの対象が「電話の前にいる人」までに制限されていたものが、「どこにいる人でもOK」にまで広がった(マナーの問題は別として)。
ケータイでメールが使われるようになると、相手と時間を共有しないといけないという壁も取り払われた。相手の都合を気にすることなくいつでも送ることができ、読むほうも自分の都合に合わせて好きなときに受け取ることができる。コミュニケーション対象が「今時間が取れる人」に限られていたのが、「今は時間が無い人」にまで広がった。
インターネットが登場すると「相手」の壁もなくなった。これまでは基本的にコミュニケーションの相手は知ってる人に限られてた。それがインターネット上で掲示板やらチャットやらが使われるようになると、相手が見ず知らずの他人であることも珍しくなくなった。「知り合い」に限られていたコミュニケーション対象が、「知らない人」にまで拡大した。
そしていま、twitterが登場して「相手の数」の壁もなくなりつつある。これまでの技術ではコミュニケーションの相手はせいぜい同時に数人か十数人までだった。が、twitterならフォロワー全員と同時にコミュニケーションすることが可能になり、相手が数百人、数千人のレベルまで膨れ上がった。人によっては数万人を同時に相手にしてる場合もある。まあ、この辺はまだ普及したというには早いと思うけど。

ここまでは、技術の進歩で物理的なコミュニケーションの壁が取り除かれていった点について述べてきた。けど、取り去る壁には心理的なものもある。例えば、電話するのはちょっと抵抗がある、とかいうときにはメールで用件を済ませたりするようなことができる。また、不特定多数の知らない人とコミュニケーションするのに自分の電話番号とかメールアドレスを使うのは不安あるが、ネットを使えばそういう個人情報を隠したままでもコミュニケーションができるので不安も解消できる。


といった感じで、コミュニケーション技術というのは、壁を取り去って、対象をどんどん広げていく方向に向かって進歩してきている。いつでもどこでも誰とでもつながれる、ということを目的にしているように見える。
これは、人々がそれを求めていたから、そのための技術がどんどん進歩していった、ということ。コミュニケーション技術が壁を取り去る方向に進歩してきたのは、ある意味必然だったのだ。

テレビ電話の方向性は?

では、テレビ電話とはどういう方向に向かっていく技術なのか。
これは明らかに、情報量を増やしてリッチなコミュニケーションを実現する、という方向だ。これまでせいぜい音声だけだったのを映像つきにして、よりリアルにコミュニケーションできるようにしよう、という目的だ。

この方向性は、上で見てきたような「壁を取り去る」というのとは逆の方向だ。

壁を取り去るうえで、コミュニケーションの情報量はどんどん減らされてきた。電話のような音声中心だったコミュニケーションが、だんだんメールのような文字中心のものに移ってきている。twitterなんて基本文字だけの上に字数も140文字以内に制限されてのやり取りだ。
これはプライバシーなどの問題を避けるために、余計な情報を省いていったためと思う。これによって、心理的な壁も取り払われていった、という面がある。知らない人とでも気軽にやり取りできるようになったわけだ。

テレビ電話は、この流れとは真逆である。つまり、人々が求めてきたものと真逆の技術、ということ。これでは普及しなくて当たり前、である。

iPhone4ならどうか

今回iPhone4がテレビ電話機能を搭載してきたが、これまでの流れを覆すことができるのか?が注目されるポイントだろう。
が、この間のCM映像を見る限りではそれほど目新しいコンセプトを提示してきたわけでもなさそうだ。流れを覆すことはたぶんできないだろうと思う。
結局テレビ電話は、iPhone4の力を持ってしても普及することはないように思う。ごく親しい間柄の人同士でしか使えない技術なので、ごく一部の人にしか使われないという結果に終わるのではないか。
それでもどうにか普及させようとするならば、人々にまったく新しいコンセプトを提示して、テレビ電話による新しいコミュニケーションの方向とその価値を示さないといけない。

まとめ

人々がコミュニケーション技術に求めるものは、リッチなコミュニケーションを実現することではなく、壁を取り去って対象を拡大することだ。テレビ電話は人々の求める方向性と逆の技術なので、きっとこの先も普及しない。iPhone4の魅力をもってしても、テレビ電話機能を使うのは一部の人に限られるだろう。

おまけ

テレビ電話は普及しない、となると、次に来るのはどういう技術だろう。壁を取り去るという方向性で考えるなら、次は例えば「言葉の壁」なんかが取り払われると面白いかもしれない。twitterに自動翻訳機能がついたようなものとか。言葉の壁を越えていろんな国の人と自由にやり取りができるようになったらけっこう楽しいような気がする。

iPhone4のテレビ電話のコンセプト?

iPhone4のテレビ電話機能、Face Time のコマーシャル動画、らしきもの。

appleがテレビ電話で実現しようとするコンセプトは何だ?と思って見てみたが、案外普通だった。
日本のケータイのテレビ電話機能も、たぶんこういうの目指してたんでしょう。何年も前から。ほとんど誰も使ってないけど。


でも、テレビ電話ってこういうもんだと思うのですよ。この動画みたいな感じで、離れたところにいる家族とか、恋人同士とか、そういう人たちのコミュニケーションをもっとリッチにする、というのがメインの価値だと思うのですよ。離れてるけどもっと相手を感じたい。文字だけ、声だけじゃ足りない、みたいな人たちに向けた価値はある。
と、考えると、市場がまったくないってわけじゃない。


でもその市場って、とっても小さいよね。家族ってふつう一緒に暮らしてるし。恋人同士も、ふつうそんなに離れ離れにならないし。
この動画みたいにテレビ電話を使いたい、と思う人は結構いるかもしれないけど、実際そういうシチュエーションになる人は少ないんじゃないかなぁ。


この動画みたいなコンセプトだと、日本のケータイのテレビ電話機能と同様、iPhoneのテレビ電話機能もほとんど使われないまま終わるような気がするのだけど、どうだろう。
いや、これからの家族は離れて暮らすのが当たり前、とかだったらまた違ってくるか。

参考

iPhone4にテレビ電話は成功するか? - あんだあどらいぶ




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