4原色テレビの本当の特徴

クアトロンという名前でシャープが売り出している4原色の液晶テレビ。これにどんなメリット、デメリットがあるのか、4原色という技術の特徴について改めて考えてみる。

4原色のメリット

まず、主なメリットは色再現範囲の拡大と省エネ効果の2つ。

色再現範囲が広がる

普通のテレビというかディスプレイは赤緑青の3原色で成り立っている。ひとつの画素が赤緑青の3つに分かれていて、それぞれの明るさを制御して、混色によって様々な色を作っている。これに、4つめの色として、例えば黄色やシアンを追加することで色再現範囲を広げることができる。普通黄色は赤と緑の光の混色で再現するが、この黄色よりも鮮やかな黄色を加えてやると、3原色だけの場合よりも黄色方向の色再現範囲を広げられる。色再現範囲が広がると、それまで表示できなかったような鮮やかな色が表示できるようになる。

省エネ効果がある

液晶の場合は、追加する4つめの色を黄色や白にすることで省エネ効果が得られる。3原色のテレビは、赤緑青の3原色を混ぜ合わせることでいろんな色を表示している。液晶テレビのバックライトは通常白色なので、カラーフィルタを通して余分な光をカットすることで赤緑青の3色の光を作っている。このとき、バックライトの光に含まれている波長のうち、赤緑青以外の成分がカットされてしまうので、その分の電力が無駄になっている。原色に黄色や白を加えると、今までムダになっていた光を利用できるようになるので、表示の輝度を上げることができる。輝度が上がるということは、同じ輝度を表示するための電力が少なくて済むのと等しいので、省エネ効果が得られる。

4原色はいいことばっかり?

4原色には、色再現範囲の拡大と省エネの2つのメリットがある。ではデメリットはどうだろうか?

まず、4原色にすることで、赤、緑、青の原色を表示した時の輝度が下がってしまうという弊害があると考えられる。3原色の場合はひとつの画素を3つに分けて、赤緑青に割り当てている。4原色になるとひとつの画素を4つに分けて赤緑青黄に割り当てることになる。なので、3原色に比べて1色分に割り当てられる面積が小さくなる。面積が小さいと光の量が減るので暗くなる。よって、赤、緑、青の原色を表示しようとすると、3原色の場合に比べて輝度が下がってしまうはず。
黄色を追加することで色再現範囲が広がるというのは、黄色の彩度がより大きくなる方向に、色の再現性が拡大するということ。一方、赤緑青の輝度が下がるというのは、赤緑青の明度が高い色が表示できなくなり、色の再現性は縮小してしまうということ。言い換えると、赤緑青の明度を犠牲にすることで、黄色の彩度を向上させた、ということ。このように、実は4原色とは色の再現性という意味で純粋に拡大したわけではなく、鮮やかな黄色と明るい赤緑青とのトレードオフになるはずだ。
なお、4原色の色再現範囲を色度図で表した場合は、トレードオフとは分からず、純粋に色再現が拡大したような図になる。これは、色度図は色の輝度を切り捨てて色情報のみを扱うので、明るさ方向の変化が図には表れないから。

上記のような理由から、単純に4原色にしてしまうと、赤緑青が暗くなる弊害が目立ってしまう。クアトロンの場合は、1画素内の赤緑青黄の面積比を工夫することでこれに対処していると思われる。具体的には、赤と青の面積を緑、黄より大きくとっている。ただこれもトレードオフで、黄色が小さいということは色再現範囲の拡大効果も小さくなるということ。結局は鮮やかな黄色をとるか、明るい赤青をとるかのバランスを面積で調節しているだけなので、この工夫によってトレードオフが解決するわけではない。


また、黄色が小さくなることで、省エネ効果も小さくなってしまうと考えられる。黄色の光を有効利用することで省エネ効果を達成しているが、1画素内の黄色の面積が小さくなれば利用できる黄色の光も減ってしまうからである。

赤緑青が暗くなるのを、バックライトの輝度をあげることで対応することも考えられるが、それでは省エネ効果が得られないのと、逆に白や黄色の輝度が高くなりすぎてアンバランスになる、という問題もあるだろう。


これ以外に、信号処理面でもデメリットがある。映像信号は3原色で構成されているので、放送にしろパッケージメディアにしろ、映像には赤緑青の3つ分のデータしかない。これを4原色のテレビに表示するためには、赤緑青3色のデータから赤緑青黄4色のデータに変換する必要がある。この変換がうまくできなければ、色の違和感が生じてしまうことになる。

あとは、液晶パネルの駆動面でのデメリットとして、ドライバ、配線の増加がある。3原色の場合は1画素あたり3本の信号線があれば駆動できたが、4原色だと4本必要になる。また、単純に考えてドライバのチャンネル数も4/3倍に増えるので、その分コストも増加してしまう。


そもそもテレビというのは赤緑青の3色で再現するように考えられたシステムなので、それを4色に増やそうと思うといろいろなところに無理が出てくる、ということだと思う。

まとめ

というわけで、4原色にはメリットもあるがデメリットも当然ある、と考えられる。
色再現は黄色の鮮やかさと、赤青の明るさのトレードオフだし、4原色にするためのコストアップや回路の複雑化などもあるはずだ。
技術というのはメリット、デメリット両方分かったうえで使わないといけないと思うので、こういう事を考察してみた。4原色という技術自体はとても面白いものなので、それを否定するつもりは無いけども、テレビという製品に落とし込むといろいろと難しい面もあるでしょう、ということは言えると思う。

参考

クアトロンの何が新しいのか - あんだあどらいぶ
色度図について(xy色度図とu'v'色度図) - あんだあどらいぶ




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本書編集委員
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