テレビの見せる色は本物の色か?

テレビとかPCモニタのようなカラーディスプレイは、いろいろな色を自由に表示することができる。
このブログではこれまで、「ディスプレイは赤緑青の光を混ぜ合わせていろんな色を作っている」というような説明をさらっとしてきた。今回は、なぜこんなことが実現できるのか?の話。

そもそも色とは何だろう。

世の中のいろんな物体はそれぞれいろいろな色をしているが、そもそもこれは何が起こっているのだろう。色の正体はなんだろう、ということが以下のページで説明されている。
色色雑学-楽しく学べる知恵袋 | コニカミノルタ
簡単にまとめると、色の正体は物体が反射している光の波長の分布である、ということ。赤い物体は赤に相当する波長の光をたくさん反射しているし、黄色い物体なら黄色に相当する波長の光をたくさん反射している。この様子は次のような図で示される。
http://konicaminolta.jp/instruments/knowledge/color/part2/img/img_03-16.jpg
引用元:色色雑学-楽しく学べる知恵袋 | コニカミノルタ
こういう感じの、「物体からの反射光に、どの波長の光がどのくらい含まれているか」という分布によって物体の色が決まっている。この「どの波長の光がどのくらい含まれているか」のことを光の分光スペクトルと言ったりする。これが色の正体。

テレビは分光スペクトルを再現して色を表示しているのか?

色の正体が光のスペクトルということは、ある物体が反射した光のスペクトルとまったく同じスペクトルをもった光をディスプレイから出してやれば、その物体と同じ色を再現できる、ということ。
また、あらゆる波長の光を好きな強さで組み合わせることができれば、どんなスペクトルでも自在に作れる。つまりどんな色でも自在に再現できる、ということでもある。
じゃあ、テレビなどのディスプレイはこれを応用していろんな色を表示しているのか? いろんな波長の光を自在に出して混ぜることで、いろんな色を自在に表示しているのか? というと実はそうじゃない。

テレビでもPCモニタでもケータイのディスプレイでも、カラーのディスプレイを虫眼鏡で見てみると、赤と緑と青の3色の光しか出ていないことが分かる。さっきのサイトの図みたいに、あらゆる波長の光が出ているわけじゃない。つまり、光のスペクトルをそのまま再現して色を表示しているのではない、ということが分かる。

テレビが色を表示できる理由

赤緑青の3色の光しか出てないのに、どうしていろいろな色を表示できるのか。これは人の目と脳が色を認識する仕組みをうまく利用しているから。
人の目には、3種類の波長の光に反応するセンサーがある。それぞれ、赤の波長、緑の波長、青の波長の光に反応するようにできている、と言われている。この3種類のセンサーの出力の比率によって、人はいろいろな色を認識している。出力がどういう比率だとどんな色が認識されるか、というのがあらかじめ決まっている。例えば、赤緑青のセンサー出力比が1:1:0だったら黄色が認識されるし、0.5:1:1なら薄めの水色、という感じで、目のセンサー出力比によって認識される色が決まっている。
ということは、あらゆる波長の光を使ってスペクトルを再現してやらなくても、人の目が持つ3つのセンサーの出力比さえ自在に操ってやれば、人にいろいろな色を認識させることができる、ということ。センサーの出力比を自在に操るには、それぞれのセンサーに対応させた赤、緑、青の光を、見せたい色に応じた比率で混ぜたものを人に見せてやればいい。
脳は3つのセンサーからの出力を受け取るだけなので、その大元があらゆる波長の光を使ったスペクトルなのか、赤緑青の3つの光だけを混ぜたものなのか、区別することができない。そのため、赤緑青3色の光の混ぜ合わせたものを見ただけで、いろいろな色を見ているのと同じ感覚を得ることができる。この赤緑青の3色が「光の三原色」というやつだ。

カラーディスプレイはこの仕組みを使って、人にいろいろな色を認識させている。言ってみれば、いろんな色を画面に表示しているんじゃなくて、赤緑青の3色の光を使って人の目のセンサーを自在に操っている、という感じ。ディスプレイは、人をいろんな色を見た気にさせているだけで、本当の色を再現しているわけじゃない。目の仕組みを利用して、見ている人をだましてるようなものだ。*1

まとめ

「ディスプレイは赤緑青の光を混ぜ合わせていろんな色を作っている」というのがどういう意味なのか、というのを説明してみた。ディスプレイというのは、人が色を認識する仕組みをうまく利用した、よくできたシステムなのである。

おまけ

人の目が持つ3つのセンサーの出力比で色が認識される。ということは、光のスペクトルが3つのセンサーで感知されてはじめて「色」になるわけで、それまではたんなる波長の異なる光の集まりでしかない。光には波長があるだけで色なんて付いてないのである。さらに言うなら、3つのセンサーの出力もただの信号でしかなくて、これが脳で処理されてはじめて色として認識される。つまり、色というのは物理的に存在しているものではなくて、人が脳内で作り出してる幻だ、といえる。人が見ているカラフルな世界は実は存在してない。じゃあ、人が見る前の世界は一体何なのか?、とか考えるとなかなか不思議な話である。




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*1:でも、ディスプレイとしてはそれで十分な色再現性能が得られるなら何も問題ない。あらゆる波長の光を出さなくても、3色の光だけでいろんな色が再現できるなら、そっちのほうが安上がりだし。