裸眼3Dディスプレイの仕組み2

前回裸眼3Dディスプレイがどうやって立体映像を実現しているか説明した。今回はその続き。

裸眼3Dの欠点

前回チラッと述べたけども、裸眼3Dは視差バリア方式にしろ、インテグラル方式にしろ、見る位置に制限が付いてしまう。ちゃんと立体に見える位置が固定されているということ。これが原因で裸眼3Dはなかなか商品化されてこなかった。また、これはメガネ式の3Dに比べた時のデメリットになっている。

どうして見る位置が固定されてしまうかというと、見る位置を変えると、目と画素の位置関係が変わってしまうから。

視差バリア方式の例で説明する。視差バリア方式は、隣り合う2つの画素の前についたてがあって、右目から見たときは右側の画素がついたてで隠れて、左目から見た時は左側の画素が隠れるようになっている。この、隣り合う2つの画素のうち片方が隠れて見えなくなる、というところが立体映像として見えるためのポイント。
もし頭の位置が横にずれてしまうと、ついたてで隠されていた画素が見えるようになってしまう。片方の画素が隠れているべきなのに両方見えてしまうので表示がだぶってしまい、もはや立体として見れなくなってしまう。また、本来隠れているべきの画素が見えて、見えるべき画素が隠れてしまったり、ということも起こる*1。そのため、見る位置を固定していないときちんと3D映像を見ることができない。

これはインテグラル方式(レンチキュラ方式)でも同じ。レンズを通して隣り合う2つの画素のうち片方しか見えないようにしてあるが、見る位置をずらすと両方見えてしまったり、見えるべきでない画素が見えてしまったりする。

で、たいていは画面の正面で、かつ決まった距離でないと、ちゃんと立体に見えない。そういう事情があって、裸眼3Dディスプレイはケータイとかの小さなディスプレイでしか商品化されていなかった。大きいディスプレイだと、必ず真正面の決まった距離から見てくれ、という制限が難しいから。

解決するには

この問題を解決する方法は2通り。
ひとつめは、見る位置がずれたときには3Dで表示することをあきらめる、という方法。富士フィルムがこの方法で3Dデジカメのディスプレイを裸眼3D対応させている。
http://eetimes.jp/article/22542
詳細は不明だけれども想像するに、斜めから見たときには、右目からも左目からも片方の画素しか見えなくなるように調整されたレンズを画素の前に置いているんだろう、と思う。正面以外から見た時に、だぶった画像や右目用左目用が入れ替わった気持ち悪い画像が見えるよりは、3D表示はあきらめて2Dで表示しよう、という考え方。


もうひとつの方法は、見る位置がずれたなら、そこからもちゃんと3D表示ができるようにしよう、という方法。具体的には、ずれた位置から見ているときには、そこからでも右目には右目用、左目には左目用の画素だけが見えるようにする。

これを実現するのが視点数を増やす、という方法。東芝の裸眼3Dテレビはこの方式を使っている。
東芝、裸眼3DTV「グラスレス3Dレグザ」を12月発売 - AV Watch
インテグラル方式の例で説明する。これまで説明した方法では、隣り合う2つの画素の前にひとつのレンズを置いた構成をしていた。この状態は視点数が2つの状態。視点数を増やすには、隣り合う2つの画素だけではなく、もっとたくさんの画素の前にひとつのレンズを置くようにする。東芝のやつは9視点なので、9個の画素の前にひとつのレンズが置いてある。

2視点の場合は2方向からそれぞれひとつの画素だけが見えるようにレンズが調整されている。9視点の場合は9方向からそれぞれひとつの画素だけが見えるように調整されている。そのため、正面からずれた場合でも、見える画素はひとつだけ、という状態が9通り作れるので、2視点の場合に比べて3D映像としてきちんと見える位置が多くなる、という仕組み。

ただ、この方法でもきちんと見える9つの視点と視点の間に来てしまうと、やっぱり正しく3D表示できなくなってしまう。また画面からの距離が変わってしまうと、レンズの調整が合わなくなってしまうので正しく3Dに見えなくなってしまう。

こういう場合には視点数をもっとたくさん増やしてやらないといけない。が、視点数を増やすということは、ひとつのレンズが対応する画素数を増やさないといけない。そのためにはディスプレイの画素数を増やすか、レンズを大きくしてたくさんの画素をカバーしないといけない。前者は画素をかなり高密度に作らないといけないし、後者は映像の解像度が犠牲になってしまう*2。理論上はできても、実現させるとなるとハードルは結構高いのだ。


なお、この視点数を増やすという方法を、3Dディスプレイを自作してやってのけてしまったすごい人がいるので、紹介しておきます。解説つきなのでおすすめです。


まとめ

裸眼3Dが見る位置の変化に弱いという事と、それを解決する方法について説明してみた。ただこの方法で解決できると言っても、実現するためのハードルはかなり高い。この、見る位置の変化による3D表示の乱れに関しては、裸眼3Dよりもメガネ式3Dの方が優れている、と言える。メガネなしで見れるんだから裸眼3Dの方が良いに決まってる、と単純にはいえない状況なのである。

参考

裸眼3Dディスプレイの仕組み - あんだあどらいぶ
裸眼3Dの目指す未来 - あんだあどらいぶ




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*1:この状態が「逆視」と言われている。

*2:ディスプレイの解像度ではなく、映像の解像度という意味では、ひとつのレンズがひとつの画素ということになる。レンズが大きくなるということはひとつの画素が大きくなるので、映像の解像度は劣化する