テレビで本物に忠実な色を表示する仕組み


テレビというものはいろんな色を表示することができる。その色は、カメラで撮られた被写体の色と基本的に同じ。全く同じにするか、補正してもっときれいな色にするかはそのテレビしだい。
ここでは被写体の色に忠実な色をテレビに表示するための仕組みについて簡単にまとめてみる。

色を再現するとはどういうことか

テレビというのは基本的に、カメラで撮影した映像を画面に映し出すためのものである。なので、画面に映っている風景やら物体にはオリジナルがある。そのオリジナルの色と同じ色をテレビ画面上に表示してやる、というのが「色を再現する」ということの意味。
なので、テレビ画面上にオリジナルの色を再現するには、カメラでの撮影からテレビでの表示までトータルで考えてやらないといけない。

カメラからテレビへ色を伝える方法

色というのは赤、緑、青の3色の光の混ぜ合わせで、どんな色でも作ることができる*1。なので、被写体の色をこの3色に分けて数値化しておけば、後でまた3色の光を数値データのとおりに混ぜ合わせて元通りの色を作ることができる。例えて言うなら、絵の具を混ぜていろんな色を作るときに、それぞれの絵の具の分量を数値で記録するようなものだ*2
カメラというのは結局のところ、被写体の色を数値データに変換する装置といえる。被写体からの光を赤、緑、青の3色に分解して、それぞれの光の強さを電気信号に変換し、数値データとして記録する。赤、緑、青の絵の具の分量を数値にしてメモするようなもの。
で、テレビの方は、数値データから色に戻すための装置といえる。データの通りに赤、緑、青の光を出して混ぜ合わせ、元通りの色を再現してみせる。メモに書いてある数値どおりの分量で絵の具を混ぜ合わせてるようなもの。
そして、カメラからテレビへ色を伝えるときには、数値データだけ送ってやればいい。絵の具は送らなくても、分量だけ教えてやればいい、という感じ。
こうしてカメラで撮影した色がテレビに伝わって、元通りの色が再現される。もちろんテレビに映った色はもとの被写体の色と全く同じ…かというと、そう単純な話じゃない。

カメラからテレビまで「色」を伝えるときの問題

カメラが記録した数値データをテレビで色に戻すとき、ちゃんと元通りの色にするためには、カメラが記録する赤、緑、青の光の色と、テレビが出す赤、緑、青の光の色とが正確に一致してないといけない。これがずれてると、当然混ぜ合わせたときに元通りの色に戻らない。絵の具だって赤と緑と青を混ぜなきゃいけないところを、赤と黄緑と青を使ったりしたら、いくら分量が合ってても思った通りの色にならない。そんなイメージ。
この赤、緑、青の色は、テレビやカメラに使われているデバイスによって決まってくる。テレビの場合、液晶なのかPDPなのかブラウン管なのかで微妙に違うし、同じ液晶どうしでもメーカーや機種など、ものによって微妙に違う。同じ赤でも紅色よりだったり、朱色よりだったり、濃かったり薄かったりいろいろなのだ。カメラの方も事情は同じ。なので、カメラの色とテレビの色はどうしても微妙にずれてしまう。
カメラとテレビでそれぞれ持ってる絵の具が違ってる、というイメージ。なら同じ絵の具を使えばいいのだが、デバイスの特性として決まっちゃってるから、そう簡単には絵の具を変えることはできない。

カメラとテレビで色をあわせるしくみ

カメラとテレビそれぞれみんな持ってる絵の具が違う。だから、混ぜ合わせる分量だけを伝えても正しい色が伝わらない。そこで、みんなの標準となる絵の具をひとつ決めて、その絵の具を使ったと仮定した場合の分量を伝えることにする。そうすれば、正確な色をカメラからテレビへ伝えることができる。
標準絵の具を使った場合の分量は、「手持ちの絵の具をどんな分量で混ぜれば標準絵の具の色が作れるか?」を知っていれば計算することができる。たとえば、赤緑青の標準絵の具を1:0.5:0.8の割合で混ぜてできる色は、カメラが持ってる絵の具では、1:0.6:0.7で混ぜれば作れますよ、という具合に。
だから、あらかじめカメラにその分量の換算方法を教えておけば、カメラは標準絵の具を使った場合の分量で色を記録することができる。テレビの方は、標準絵の具の分量から自分の絵の具の分量に換算する方法を知っていれば、正しい色(標準絵の具の分量で指示された色)を出すための自分絵の具の分量を求めることができる。こうして、色を誰かに伝えるときには「標準絵の具での混ぜ合わせ分量」を使うことにし、実際に色を表示するときには各自で自分の絵の具の分量に換算することで、正しい色を記録したり表示したりできるようになる。

絵の具の例えは実際は…

例え話として使った「標準絵の具」というのが実際には「色空間規格」というものになる。BT.709とかx.v.colorとかsRGBとかAdobeRGBとか、用途によっていろいろな種類の色空間規格が作られている。色空間規格では「標準絵の具の色」に相当する、「赤、緑、青、白の光の色」を標準規格として決めてある。決められた色の光を混ぜ合わせる比率をデータとしてやり取りすることで、カメラとテレビの間で正しい色の情報がやり取りできる。したがって、テレビは本物の色に忠実な色を再現できるようになるのである*3
また、カメラ独自の絵の具やテレビ独自の絵の具がどんな色をしているのか?、のことを「色再現範囲」と呼んでいて、テレビなどの色再現性能を表す指標になっている。
ちなみに、テレビでこの処理を実現するなら、「絵の具の混ぜ合わせ量の換算」をするための演算回路やルックアップテーブルのようなものを画像処理エンジンに搭載することになるんだと思う。もしくは、液晶パネルやPDPなどのデバイス側で何とかがんばって、「標準絵の具にできるだけ近い色の絵の具」を持ったデバイスを作ることになるんだろう。ただ、そういうデバイスが作れたとしても、製品のばらつきで色がずれたりすることもあるので、できのいいテレビにはやっぱり色を換算する演算回路が搭載されてるんじゃなかろうか、と思う。
色空間規格の例はこちらを参照。放送規格などで使われる色空間 - あんだあどらいぶ
色再現範囲についてはこちらを参照。テレビの色再現について - あんだあどらいぶ
x.v.colorについてはこちらを参照。x.v.colorとは結局どういうものなのか? - あんだあどらいぶ

まとめ

というわけで、テレビで本物に忠実な色を表示するための仕組みはこんなふうになってるよ、というのを説明してみた。ポイントは、色の情報を色空間規格で決まってる標準の色にのっとってやりとりすること。なので、テレビが色空間規格に対応するということが、忠実な色を表示するための方法になる。
このしくみはカメラとテレビに限ったものではなくて、デジカメとPCモニタとか、PCモニタとプリンタとか、いろんな機器間で色を合わせる方法として利用できる。一般には「カラーマネジメント」といわれる技術である。






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*1:もちろん限界はあって、世の中のすべての色を作れるわけではないけど

*2:光と絵の具とでは色を作る原理が正反対だけど

*3:テレビの色再現範囲内の色に限られるけど