色再現範囲に関するメーカーの取り組み


これまでテレビの色再現についていろいろと書いてきた。前回はLEDバックライトの液晶やレーザーを使ったテレビでなぜ色再現範囲が広がるかについても書いてみた。今回はテレビメーカーがそれぞれ広色域化についてどういうアプローチをとっているか調べてみた。

ソニー

ソニーは色再現範囲を拡大することにかなり積極的。2004年にはすでにQUALIA 005として、世界初のLEDバックライト搭載液晶TVを発売している。トリルミナスと名づけられたRGB3色のLEDを使ったバックライトで、現在ではBRAVIAの最上位モデルに搭載されている。u'v'色度図上でNTSC比125%の色再現範囲。また翌年には、ライブカラークリエーションという名前で、広色域CCFL*1バックライトを使ったモデルを発表し、以降はこれをメインに展開している。こちらはNTSC比で102%の色再現範囲。どちらも赤と緑方向の色再現範囲が広くなっており、真紅や深緑などの色再現性がよくなっている。
テレビ側で色再現範囲の拡大を進める一方、xvYCC(x.v.color)の規格を作り、映像信号側でも広色域に対応できるようにするなど、色再現性の向上にかなり積極的な印象。上記の色再現範囲拡大モデルはx.v.colorに対応しており、きちんとした色再現を行おうとしているようだ。色にこだわりを見せるメーカーといえる。先陣を切ってテレビの色再現性向上を進めている。

シャープ

シャープはソニーがQUALIA 005を発表した翌年、2005年から「4波長バックライト」を搭載したモデルを出している。
4波長バックライトとは、CCFLバックライトの蛍光体が通常は赤、緑、青の3色のところを、真紅を追加したもの。これによって深みのある赤の再現性を向上させている。これの色再現範囲NTSC比91%。またその後、4波長バックライトに赤色LEDを追加した「ハイブリッド・バックライト」を搭載したモデルも出している。これの色再現範囲はNTSC比で95%。が、これ以降は4波長バックライトをメインに展開しており、ハイブリッドバックライトのモデルは出ていないようだ。
2007年には次世代技術の試作機を発表。詳細は不明だが、NTSC比で150%の色再現範囲を持っているそうだ。
現行モデルでは4波長バックライトを使ったモデルが多く発売されている。謳われてはいないけれどx.v.colorに対応しているらしい。ただ、最新のAQUOS Xシリーズには4波長バックライトは搭載されていないようだ。超薄型モデルだと4波長バックライトが使えないのか、それとも色再現範囲はあまり重要ではないと考えているのかは分からないが。

三菱

テレビ向けではないが、昔からLEDバックライトを開発している。6原色LEDバックライトを開発したり、最近ではレーザーTVを発表するなど、色再現性の向上に力を入れているようだ。現行の液晶TVでも、NTSC比102%の色再現範囲を持つモデル(MZWシリーズなど)を出しているし、x.v.colorにも対応している。どういう方式か詳しいことは分からないけれど。
色再現に関する技術開発はいちばん進んでそうなイメージ。

東芝

2007年のREGZA H3300シリーズから広色域バックライトを使ったモデルを発売している。その後のRF350シリーズやZ3500シリーズなど上位機種ではx.v.colorにも対応。BT.709比で約114%の色再現範囲をもつ。バックライトの蛍光体を変更して実現していることから、LEDは使っていない模様。
ソニーやシャープと比べると色再現範囲拡大をはじめたのは遅めのようで、先陣を切って広色域化を推進してきたわけではなさそう。最近はRGBのLEDバックライト技術を開発するなど、色再現性の取り組みを進めているようだ。

ビクター

2007年から広色域のモデルを発売。2008年モデルからはx.v.colorに対応NTSC比で102%の色再現範囲を持っている。詳しい方式は不明。色再現範囲の拡大はわりと最近になってから行っているようだ。
まだ製品化されていないが、LEDバックライトも開発している。こちらはNTSC比で116%の色再現範囲との事。2007年のCEATECで展示されていた。
東芝同様、色再現範囲の拡大については後発の印象。

パナソニック

プラズマはもともと色再現範囲が広いといわれていたためか、液晶テレビメーカーほど色再現範囲を拡大させることに重点を置いていないように感じる。今までは色再現範囲に関する技術の発表などはあまり聞かれなかったように思う。現行モデル(PX80シリーズ)で、BT.709比110%の色再現範囲(色域カバー率は100%)となっており、x.v.colorにも対応している。
CESでの展示によると、次期モデル(PZ800/PZ85シリーズ)からはデジタルシネマの色域に対応するとの事。これの色再現範囲を計算してみると、BT.709比で約126%の色再現範囲を持つことになる。赤と緑方向の色再現範囲が広がり、またBT.709の色域は100%カバーされる。液晶陣営が色再現範囲を拡大しているのを受けて、プラズマでも色再現範囲を拡大していこうという方針のようだ。
液晶モデルの方は、現行モデルでBT.709比ほぼ100%の色再現範囲との事。あまり色再現範囲を拡大する取り組みは行われていないようだ。

日立

日立のプラズマも色再現範囲に関してはあまり聞かれない。が、現行モデルの色再現範囲はBT.709よりもだいぶ広そうである。数値でどのくらいか公表されていないので分からないが、図で見た限りでは広そうである。x.v.colorには対応していないようだ。
液晶モデルは色再現範囲に関しては特に何も行われていなさそうだ。

イオニア

イオニア2006年のモデルNTSC比106%の色再現範囲を持つPDPを発売している。現行モデルではどのくらいかは公表されていないようなので分からないが、たぶん同じくらいなんじゃないかと思われる。x.v.colorには対応していないようだ。


色再現範囲の比較

各社のテレビの色再現範囲を比較してみる。単純に数値だけ比較してもあまり意味はないだろうけど、参考までに。

NTSC BT.709比
ソニー(トリルミナス) 125% 143%
ソニー(ライブカラークリエーション) 102% 117%
シャープ(4波長バックライト) 91% 104%
シャープ(ハイブリッドバックライト) 95% 109%
三菱(レーザーTV) 推定174% 推定200%
三菱(液晶TV) 102% 117%
東芝 99% 114%
ビクター 102% 117%
ビクター(LED、未製品化) 114% 131%
パナソニック(プラズマ現行モデル) 96% 110%
パナソニック(プラズマ次期モデル) 推定110% 推定126%
パナソニック(液晶) 87% 100%
日立(プラズマ) 広そう? 広そう?
日立(液晶)
イオニア 106% 122%

NTSC比、BT.709比は片方しか公表されていないので、それぞれ比較できるように換算した。
こうしてみると色再現範囲の広さはだいたい、レーザー>LEDバックライト液晶>プラズマ>広色域蛍光管バックライト液晶>通常の蛍光管バックライト液晶、の順になっているようだ。
ソニー、三菱、ビクターの色再現範囲が同じということは、このあたりは同じバックライトを使っているのかもしれない(偶然一致してるだけかもしれないが)。

まとめ

テレビメーカー各社の色再現範囲の拡大の取り組みを調べてみた(主にwebで)。やはり最も積極的に色再現範囲を向上させているのはソニー、三菱のようだ。この2社は昔から積極的に開発を行ってきているようだ。シャープがそれに次ぐ位置と言えそう。その他の液晶テレビメーカーは、ソニーなどの動きやxvYCCの規格化を受けてそれに対応させた、というところだろうか。
プラズマ陣営はもともと色再現範囲が液晶より広かったためか、あまり色再現範囲の拡大にこだわってなかったように思う。液晶陣営の取り組みを受けて、プラズマ陣営も動き出した、という感じではなかろうか。
それにしても、最近はほとんどのメーカーがx.v.colorに対応してきているようだ。今のところ対応する映像ソースがほとんどないのにも関わらず。それだけx.v.colorの将来の普及が見込まれているということだろうか。
ともかく、各社とも色再現範囲の拡大の取り組みを進めていることが分かった。これがただのスペック競争になってしまわずに、正しい色再現性の向上へ向かってくれると良いのだが。

*1:冷陰極管。蛍光管の一種