クアトロンの何が新しいのか

最近、アクオスのCMでクアトロンをアピールしているのをよく見る。「金色の輝きが美しいです」「あ、ごめんなさい、今までのテレビでは…」っていう感じの、今までのテレビを持ってる人にとってはだいぶ挑発的なCM。あと、「4原色で、テレビが変わる」っていうキャッチコピーも使ってる。
クアトロンの何が新しいかというと、いままでのテレビが赤緑青の3原色だったところを、黄色を追加して4原色にしたっていうところ。なのだけど、どうしてそれでテレビが変わるほどのインパクトがあるのかは、あんまりよく分からない。
というわけで、クアトロンの4原色の意味について考えてみる。

4原色の目的

クアトロンの4原色の目的は、色再現範囲を広げることである。CMでそう言ってるんだから、そのはず。
クアトロンのCMでも言っているけれど、4原色にすることで金色がキレイに表示できるようになる。これは、今まで赤緑青の3原色だったところに黄色を追加したことで、色度図上で黄色方向の色再現範囲が広がるから。色再現範囲については前に記事にしてみたが、簡単に言うとディスプレイが表示できる色の範囲のこと。これが広いほど、同じ赤や黄色でもより鮮やかな色が表示できるようになる。
ちなみに「金色」は黄色に光の反射を加えて金属っぽくしたものなので、鮮やかな黄色が表示できるということはつまり、鮮やかな金色が表示できる、ということ。
この、色再現範囲が広がるということを指して、「4原色で、テレビが変わる」と言ってるのだろう。たぶん。

どうして4原色なんですか?3原色じゃダメなんですか?

ところで、色再現範囲を広げる方法は4原色化することだけじゃない。実は3原色のままでも可能だったりする。
以前こちらで記事にしてみたけども、原色の純度を高めることで、3原色のままでも色再現範囲を広くすることができる。原色の純度=鮮やかさを増すと色度図上で赤緑青の3点を結んだ三角形が大きくなるので、より広い範囲の色が表示できるようになる。
で、ちょっと前までは、色再現範囲の拡大といえばこの3原色の鮮やかさを増す手法が主流だった。たとえばシャープはRGB3色タイプのLEDバックライトでこの手法を導入したモデルを発売していた(シャープ、“メガコントラスト”の最上位「AQUOS XS1」)。また、ソニーも蛍光管バックライトで原色の純度を高めて色再現範囲の拡大をやっていて、ライブカラークリエーションと呼んでたりした。パナソニックもプラズマで同じようなことをやっていた。その色再現範囲はプラズマだと例えばこのページにあるような感じ。この図によると、2年前のモデルのプラズマで、黄色の領域はほとんど全部カバーできている。ソニーやシャープのは色度図見つけられなかったけど、たぶん同じような感じだったと思われる。
というわけで、3原色のままでも鮮やかな黄色の範囲をカバーするところまでRGBの原色の純度を高めれば、4原色と同じ鮮やかな金色を表示することは可能だ。決して「4原色だからできた」ってわけじゃない。

4原色で、テレビが変わる?

以上のことを考えると、クアトロンは「4原色にしたからこそ金色がキレイになった」わけではなくて、「金色をキレイにする手法の一つとして4原色を選んだ」と言うほうが正しい。CMで言ってる「今までのテレビでは…」っていうのも、シャープ自身が3原色のままで色をキレイにしたテレビを以前発売していたことを考えても、ちょっと違うんじゃないの?と思う。
と考えると、これらのキャッチコピーやCMは技術的な根拠があるというよりも、マーケティング上の戦術として言ってるんじゃないか、という気がする。クアトロンに「いままでの液晶テレビとは決定的に違うんです」というイメージを持ってもらうために言ってるんではなかろうか。
こういうマーケティングは韓国サムスンが、液晶テレビLEDバックライトを搭載したときにやっていた。サムスンのテレビは日本では売ってないけれど、海外では、液晶テレビLEDバックライト搭載モデルを「LED TV」と銘打って、今までの液晶テレビとは別物だ、というイメージを持たせていた。こうすることで、「LED TVは最新の薄型テレビ。液晶はもう古い。」というような印象を持たせて、イメージ向上に成功している。実際何が違うかといえばバックライトがLEDに変わっただけで液晶TVであることに変わりは無いのだけど、マーケティングによってまったく新しいTVであるように見せている。
シャープもサムスンと同じように、クアトロンをいままでの3原色のテレビとはまったくちがう、新しいTVとして位置づけてイメージ向上を図っているんじゃなかろうか。

まとめ

色再現範囲の拡大は、別に4原色にしなくても可能である。技術的には4原色を商品化したのはすごいことだと思うけれど、それによって生み出される価値は別に新しいものじゃない。正直、4原色にテレビが変わるほどのインパクトがあるかというと、微妙な気がする。マーケティング上そういうアピールをしているだけかな、という印象。まあ、こういうアピールの仕方もありだとは思う。けど、色再現範囲の拡大という他社もできていることを「シャープにしかできません」みたいな言われ方をして、他社は黙ってないんじゃないかなぁ、と思うのだけど…。

参考

シャープ、“4色革命”の「AQUOSクアトロン」を7月発売 - AV Watch




色彩工学入門―定量的な色の理解と活用
篠田 博之 藤枝 一郎
森北出版
売り上げランキング: 235334
おすすめ度の平均: 4.0
4 色彩に関連する工学入門書として極めて良書