4倍速液晶テレビの本当の効果

テレビはコマ数が増えるとなめらかになる。
4倍速でコマ数4倍。

上のコピーはソニー液晶テレビブラビア」の4倍速搭載モデルのもの。4倍速って何?という疑問に簡潔に答えるコピーである。もっと詳しくは、こちらでも解説されている。4倍速は普通のテレビの4倍のコマ数だから、映像がなめらかになるよ、ということがとてもわかりやすく説明されている。

この説明、わかりやすいのはいいのだけれど、同時にものすごく違和感がある。間違ってないけど、正確じゃない、という説明だと思う。そのへんをいろいろと書き綴ってみる。

なめらかさのためには4倍速は必要ない

いきなり言ってしまうと、4倍速の目的は映像をなめらかにすることじゃなくて、動画ボケを軽減すること。でもソニーの説明では、なめらかにすることが目的のように言っている。ここが違和感。

実は、映像のなめらかさのためなら、4倍速(毎秒240コマ)も必要ない。ブラウン管テレビと同じ、1倍速(毎秒60コマ)で十分だ。実際、ブラウン管のテレビを見ていて「動きがカクカクする」とか「ぎこちない」とか思うことってないはず。ちゃんと動きがなめらかに見えるように考慮して、テレビの映像は毎秒60コマで送るように決められているのだから、表示するときも毎秒60コマで十分なめらかに見えるのだ。
ソニーのサイトの4倍速説明動画では、スローモーション映像で4倍速と1倍速の比較をしている。それで60コマでは動きがカクカクすると言っているけども、そりゃスローで見たらそうなるのはあたりまえ。実際テレビの映像はスローで見るわけじゃないから、この比較はちょっとフェアじゃない。

つまり、4倍速で得られる映像の「なめらかさ」は、完全にオーバースペックで不要なものなのである。まあ、なめらかであると言えば確かにその通りだけど、そのなめらかさを認識できる人間はいない、と思う。

なんのための4倍速?

じゃ、4倍速って何のためにあるのか。それは先にちらっと述べたように、映像をなめらかにすることじゃなくて、「動画ボケ」*1を軽減するためだ。
「動画ボケ」というのは、液晶テレビの弱点としてよく言われているもので、映像が動いたときに物の輪郭がぼやけてしまう現象のこと。止まっているときにはくっきり見えていたものが、動いた途端にぼやけて見えるたりする。よくあるシーンだと、テレビ番組の最後に流れるスタッフロールとかの、横スクロールするテロップで起こる。*2

で、動画ボケを解消するにはどうすればいいかというと、映像の1コマ1コマが表示されている時間を短くすればいい。テレビの映像は毎秒60コマだから、そのままだと1/60秒の間同じコマが表示される。この表示時間をもっと短くするのだ。
方法のひとつは、ソニーの4倍速のようにコマ数を増やすこと。4倍速だと毎秒240コマになるので、1コマの表示時間は1/240秒になり、60コマのときの1/4になる。
もうひとつの方法は、1コマが表示される1/60秒のうち一瞬だけコマを表示して、残りの時間は画面を真っ暗にする方法。これはインパルス駆動と呼ばれている。ちなみにブラウン管テレビはこの方法で映像を表示しているので、動画ボケは発生しない。*3

この2つの方法のどちらでも動きボケを軽減することが可能。ようするに、4倍速は動きボケ軽減のための技術、と言うほうが、説明としては正しいはずだ。

なんでなめらかさを謳うのか

じゃあなぜソニーは4倍速で「なめらか」と説明するのか。想像してみると2つ思い当たる。

ひとつは、動画ボケの説明が難しいこと。4倍速による動画ボケの改善は実際に見てみれば一目瞭然に分かるのだけど、それを言葉で説明するのはとても難しい。ましてやその原理まで説明しようと思うとまた一段と難しいし、多くのユーザーに理解してもらうのも大変。CMや短いキャッチコピーでそれをやるのはほぼ不可能。だから、「コマ数4倍でなめらかですよ」と説明した方が、わかりやすくていいということかもしれない。

もうひとつは、インパルス駆動との差別化を図りたいから、ということが考えられる。「インパルス駆動と4倍速とは違うものだ」ということを印象づけたいのかもしれない。4倍速でもインパルス駆動でも動画ボケを軽減するのは同じ*4。で、インパルス駆動は4倍速に比べて簡単に実現できるので、他社が採用してくる可能性が高い。そうなったときに、「ソニーの4倍速は他社のインパルス駆動とちがって、なめらかになっていいんですよ!」と訴求したいのかもしれない。

それでいいのかソニー

「コマ数4倍でなめらか」は、説明としては嘘ではないし、わかりやすいのだけど、それでいいの?と思ってしまう。
4倍速を開発した技術者たちはこの売り文句に納得してるんだろうか、と。4倍速を実現させるのは、技術的にハードルが高くて難しいはず。苦労して開発したものは、どう頑張ったのかちゃんと伝えて欲しいんじゃなかろうか。自分たちが何の課題を解決して、どんな良さを達成したのかって、ちゃんとユーザーにわかってもらいたいんじゃないのかな。「なめらかにする」んじゃなくて、「液晶の逃れられない欠点である動きボケを改善したんだ!」って。


まあでも、わかりやすいのも大事なんだよね。難しいこと言って伝わらなかったら意味がないから。技術を伝えるのはほんと難しいのです。





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*1:動きボケとか、呼び名は他にもある

*2:なぜこの動画ボケが発生するか?、はちょっとややこしいのでまた別の機会に…。

*3:なぜこれで動画ボケが解消出来るのか?もまたややこしいので別の機会に…

*4:どちらが動画ボケ軽減効果が高いのか?はそれぞれの性能や方式によるので一概に言えない