テレビの色温度の調整について

テレビの色温度の話。
このまえのエントリで日本のテレビの色温度が国際標準よりも高い理由について書いてみた。まあ、理由はともあれ色温度が国際標準と違うということは、国内のコンテンツを見る場合には問題ないけれど、海外で作られたコンテンツを見ると正しい色(=製作者の意図した色)で表示されないことになる。
これを何とかするにはテレビの色温度設定を低い値に変えてやればよいのだが、「色温度設定を変える」というのが具体的にどんな処理なのか考えてみる。



そもそも色温度とはなにか

色温度とはようするに白っぽい光の「色」を数値化したものといえる。定義は、簡単に言うと、黒い物体(黒体)に熱を加えたときに発する光の「色」をそのときの「温度」で表したもの、である。温度が比較的低めのときはオレンジ色の光を発するが、温度が高くなるにつれてだんだん黄色っぽい白から青白い光へと変化していく。詳しくはwikipediaで。たとえば照明の色に対して色温度○○と言った場合はその照明の色がどんな色かを表す。
テレビで色温度○○と言った場合には、「白」を表示したときに表示される色のことを指す。「白」といっても黄色っぽいものや青白いものとさまざまなので、色温度という数値でそのテレビの白がどんな白なのかを表している。
色温度が高く白の色が青白い場合、他の色も若干青白い方向に引っ張られる。そのため色温度は全体的な色再現に影響する。



テレビの色温度はどうやって決まるか

カラーテレビはRGB(赤緑青)の三原色の光を混ぜ合わせることで色を作っている。RGBそれぞれの明るさを変えると、混ざってできる色もいろいろに変わる(加法混色というのだが、このへんの話はまた別の機会に…)。白を作るにはRGBすべての光を混ぜ合わせればいい。RGBごとの明るさは0〜255の数値で表されていて、白を表示するときはRGBすべてが最大の明るさ(255)で光っている。
この「白」がどんな色になるかは、混ぜ合わせるRGBの三原色がそれぞれどんな「色」でどんな「輝度」なのかによって決まる。最大の明るさは255という数値で表されているが、それが具体的にどのくらいの明るさ(輝度)かというのを表しているわけではない。255というのはそのデバイスで表示できる最大の明るさという意味である。なので、RGBごとの最大の明るさの比率がどうなっているかによって白の色味が変わってくる。赤の輝度が強めなら赤っぽい白になるし、青の輝度が強めなら青っぽい白になる。
ここからは、液晶テレビを例として話を進める。液晶テレビの場合、三原色の「色」と「輝度」は基本的に「バックライト」と「カラーフィルタ」の組み合わせで決まってくる。ふつう液晶テレビのバックライトは蛍光灯が使われている。そのバックライトには赤青緑の3色分の蛍光体が入っており、それらが同時に光るので白い光を放っている。カラーフィルタは赤緑青3色分あり、それぞれ赤、緑、青以外の波長の光を遮断するようになっている。液晶テレビの画面に顔を近づけてよーく見ると、ひとつの画素が赤緑青に分かれているのが分かるが、これがカラーフィルタ。三原色の「色」がどう作られているかを簡単に言うと、バックライトの白い光にカラーフィルタが色をつけているようなイメージ。なので、バックライトの蛍光体の色が変われば三原色も変わってくるし、カラーフィルタの色が変わってもやはり三原色が変わってくる。バックライトの放つ光の特性とカラーフィルタの特性とが組み合わさったものが三原色の「色」と「輝度」になっている、といえる。
液晶パネルは、バックライトの特性とカラーフィルタの特性を適切に組み合わせることで所望の三原色を作り出し、ひいては所望の色温度の「白」が表示できるように設計されている。日本のテレビの場合は色温度が9300Kになるようにバックライトとカラーフィルタが設計されている、ということ。



色温度を変えるとはどういうことか

以上説明してきたように、色温度はデバイスの特性によって決まっているものである。液晶テレビの場合はバックライトとカラーフィルタの特性で決まっている。なので色温度を変えるには、バックライトかカラーフィルタの特性を変えればいい。とはいえ、バックライトやカラーフィルタの特性は一度作ってしまったらもう変えられない。なので、テレビの色温度調整というのは、映像信号のほうに手を加えることで色温度を変えている。
具体的にどういう処理を行っているかはメーカーによっても違うだろうし分からないのだが、単純に考えればRGBごとの信号のゲインを調整して、白表示時のRGBごとの明るさを制御していると思われる。たとえば、白が青白すぎるので黄色っぽい白に変えたい場合は、青の信号を0.8倍に抑えるなどして、白が表示されるときのRGBの明るさのバランスを変えてやる。RGBごとのゲインをそれぞれ調整してやれば、どんな色温度の白でも自由に調整して表示することは可能になる。つまり、色温度調整というのは、基本的にはRGBごとのゲインを調整している、ということと思われる。



信号ゲインで色温度を調整するとどうなるか

映像信号に手を加えることで色温度を変えることはできるのだが、これはちょっと無理をしている形になっている。
たとえば、青の信号を0.8倍に抑えて色温度を調整するということは、青の信号は本来0〜255まで明るさが表現できるところを0〜204(=255×0.8)までしか使わなくなるということ。0〜255まで256階調分の情報が0〜204までの205階調分に減ってしまっている。このことが画質にも影響を与えていると思われる。
ここで言われているような肌色の不自然さは、そういう理由で起こっているのではないかと考えられる。(それだけが理由かどうかは分からないけれど。)
今の液晶テレビはダイナミックモードで12000Kくらいの色温度で設計されている。これはパネルの素の白が12000Kに設計されているということ。ダイナミックモードは輝度を高くしなければならないので、パネルの色温度を12000Kにしておくのがいちばん効率がいい。パネルの色温度が6500Kのものを信号処理で12000Kにするような設計をしていると、先述の理由で輝度が下がってしまうため。このだいぶ青白いパネルを信号処理で色温度6500Kにあわせるためには、青や緑の信号をだいぶ弱めないといけない。そのぶんだけ青や緑の階調が大きく犠牲になってしまっているはず、と考えられる。



画質のためにはどうあるのがいいか

そういうわけで、テレビの色温度を信号処理で調整しようとするとどうしても無理が生じてしまい、画質に何かしら影響が出てしまうと考えられる。これを防ぐためには、もっと高度なカラーマネジメントを導入するか、表示デバイス側でどうにか色温度を調整する機能をつけるかどちらかだと思う。
バイス側の対応として、液晶テレビの場合だとバックライトの色を調整できるようにする方法が考えられる。現状ではそういう液晶テレビはたぶん存在しないと思うが、たとえばバックライトにRGB3色のLEDを用いるような製品なら、RGBごとのバックライトの輝度を調整してやることで映像信号のほうには手を加えなくても色温度調整が可能になるんじゃないかと思う(何か別の副作用みたいなものがあるのかもしれないけれど)。




テレビの色温度を調整すると画質に悪影響があるというのは、やはりあんまりよろしいものではない。このあたりが解決されて、画質に悪影響なく自由に色温度調整ができるようになれば、よりいっそう高性能なテレビができると思うのだがどうだろうか。
というかその前にまず、12000Kとか高すぎる色温度にあわせてテレビを設計するのは考え直してもらった方がいいような気もする。店頭での見栄えを重視した競争が大事なのも分かるけども…それよりもユーザーが実際に使う環境で最高の画質になるように設計してくれた方が嬉しいのだが…。