3D映像の課題2 立体感における違和感

前回のエントリで、3D映像の課題として、両眼視差を利用した立体映像の原理的な課題について考えてみた。今回は別の視点から、3D映像の立体感における違和感について考えてみる。

3D映像に感じる違和感

3D映像を見ていると、立体感は確かにあるのだがなにかおかしい、という感じることがある。たとえば、映像に映っている人間が小人に見えるとか、異なる距離にいる人物がそれぞれ平面に描かれた「書き割り」が並んでいるみたいに見えたり、といったことが起こる場合がある。こういう現象はそれぞれ、「箱庭効果」、「書き割り効果」と呼ばれている。

箱庭効果と書き割り効果の原因

これらの効果は、単眼での奥行き情報と両眼での奥行き情報の間の矛盾が原因で生じる、と考えられている。

ふつう、カメラで物体を撮影した時、レンズの画角によって遠近感が表現される。近くのものは大きく写るし、遠くのものは小さく写る。なので、3D映像でなくても映っている物体がどの程度の距離にあるのかはなんとなく分かる。
一方、両眼視差を用いた3D映像の場合、2つのカメラで物体を撮影した時の見え方のずれである視差によって、遠近感が表現される。近くにあるものほど視差が大きくなり、手前に飛び出して見えるようになる。

この、カメラの画角で表現される遠近感=単眼での奥行き情報と、視差で表現される遠近感=両眼での奥行き情報とが一致していないと、立体感に違和感を感じることになる。

具体的には、視差によって得られる奥行き感と比べて、映っている物体の見かけの大きさが小さいと、人が小人に見えるような箱庭効果になるのではなかろうか。また、単眼での遠近感に比べて、視差による遠近感の方が小さくなると、奥の物体と手前の物体との距離が詰まって見えてしまい、物体の厚みが感じられなくなる書き割り効果になるのでは、と考えられる。

まとめると、箱庭効果も書き割り効果も、カメラレンズの画角で得られる奥行き感に対して、視差が正しく再現されていないことが原因で起こっているといえる。

どうしてそうなってしまうのか

では、正しい視差を再現できれば箱庭効果や書き割り効果が解消されて、より自然な立体感が得られるのか、というとその通りのはずだけど、これを実現するのは結構難しいと思われる。

まず、カメラで撮影した時に得られる視差と、それを実際にスクリーンやテレビ画面に表示した時の視差はたいてい一致しない。表示した時の視差は画面の大きさによって変わってしまうからだ。映画館のスクリーンの方が、家庭用のテレビよりもはるかに大画面なので、当然視差が大きくなる。また、スクリーンや画面までの視聴距離によっても視差が変わってしまうだろう。

そこで、3D映像の制作においては視差の調整が行われる。実際に視聴される画面の大きさを想定して、最適な立体感が得られるように視差を調節するのである。とはいえ、CG作品なら2台のカメラの間隔や向きを変えて何度でもレンダリングできるので視差の調整は比較的簡単だが、実写作品だとそうも行かない。何度でも取り直しするというわけには行かないし、また、実際に視聴する画面に表示して視差や立体感を確認するのも撮影現場では不可能だろう。だからどうしても視差の調整が完全にはできず、書き割り効果のような現象が発生してしまうと思われる。

実際、映画「アバター」では、箱庭効果は感じなかったが、書き割り効果は特に実写パートで感じられた。CGパートでは感じられなかったので、CGパートの視差は十分に調整されているのだろう。

まとめ

3D映像といっても、ただ単に2つ並べたカメラで撮影したものを表示しておけばいいというものではない。適切な立体感を得るためには、視差の調整をしっかりと行わなければならないのだろう。きっとこの辺りが3D映像の出来の良し悪しにつながっているんだろう。