3D映像の課題

3D映画「アバター」がヒットしたり、家庭用の3Dテレビが発売されたりと、3Dが一気に広がりはじめている。アバターのヒットの理由を以前考えてみたが、やはり3Dであることが重要な要素であり、それだけ3Dは注目されている。
3D映像の技術自体は昔からあるものだけれど、最近の3Dは昔からあるものと違い、高精細でくっきりとした画像で、いままで以上に臨場感のある立体映像を楽しむことができる。これだけで十分魅力的ではあるのだが、一方で現在の3D映像には性能的な限界みたいなものが感じられたりもする。
このへんについて思うところを書いてみる。

3Dの仕組み

まず簡単に3D映像の仕組みを説明。
人間が物を立体的に見るのには、左右の目それぞれで見た映像の微妙な位置のずれを利用している。右目と左目で物の見える位置は微妙にずれている(両眼視差って言います)が、このずれの量によって距離間というか奥行きを感じている。3D映像はこの人間の性質を利用している。見る人の右目と左目にそれぞれ微妙に位置がずれた映像を見せることで、映像を立体的に感じさせているわけだ。

両眼視差による立体映像の問題点

ところがこれにはひとつ問題な点がある。
実は、自然の風景を見ているのと3D映像を見ているのとでは、目の使い方がまったく違っているのである。
3D映像をみているとき、映像自体はテレビ画面やスクリーンに映し出されているので、目の焦点はいつも画面やスクリーンに合っている状態になる。
一方、右目、左目で見え方にずれがあるため、それぞれの目玉はそのずれにあわせて見る角度を変えようとする(輻輳角って言います。近くの物を見ようとして寄り目になったりする、あの角度のこと)。
つまり、目の焦点調節と、目玉の方向の調節とが矛盾した状態になる。焦点は画面やスクリーンの距離にあわせないといけないのに、目玉の向きはもっと近くを見ようとしているような不自然な状態になってしまう。

これによっていろいろ不都合が起こるはず。
たとえば、前後の視点移動がスムーズにいかない、ということが起こりうる。手前に飛び出たものを見ていた状態から、奥にあるものに視点を移そうとしたときに、ちゃんと立体的に見えるまでにほんの少し時間がかかるようなことがあるだろう。実際の風景を見ている場合には、両目の輻輳角と焦点の調節とをうまく連動させることができるので、前後の視点移動でもスムーズにできる。けど立体映像の場合は、目の焦点は同じ距離に維持したまま輻輳角だけ調節することが必要なわけで、これをうまく連動させるにはきっと慣れが必要だ。だからスムーズな前後の視点移動ができない、という現象が起こるのではなかろうか。

3D映像を実際に見て感じたこと

実際、映画「アバター」を見ているときにこういう現象を感じたシーンが何度かあった。たとえば、森の中でトラみたいなやつに追いかけられるシーン。トラみたいなのと主人公がそれぞれ奥と手前に配置されて激しく動くシーンだ。こういうシーンはトラと主人公を交互に見ようとするものだと思うが、これがなかなかうまくできなかった。その結果どうにも立体感が得られないだけでなく、何がなんだか分からないシーンだと感じてしまった。
他には、シーンが切り替わった瞬間にも同じようなことがあった。シーンが変わったときに、見るべき対象物がどこにあるのか、というか、どの距離にその物体があるのかが把握できるまでに少し時間がかかった。これもたぶん、焦点を変えないで輻輳角の調整だけで対象物の距離を把握しなければならないのが原因じゃないかと思う。


まとめ

こんな感じで、現在の両眼視差を利用した立体映像は、通常とは違う不自然な目の使い方になるため、不都合が生じることもあるだろう。これは両眼視差を利用して立体感を得るという仕組み上、どうしても回避することのできない問題だと思う。
ただ、これもある程度時間がたてばだんだん慣れてくるものだと思う。実際、映画「アバター」を見ているときでも、映画の後半ではあまりこういう現象は感じなかった。映画を見てるうちに目が慣れてきたのかもしれない。

もしこの課題を解決できたら、実際の風景を見ているのと変わらない感覚で立体映像が楽しめるようになるだろう。が、たぶんそれにはもう少し時間がかかると思う。輻輳角だけでなく焦点調節まで正しく再現しないといけないので、まだまだ技術的に厳しいと思う。研究しているところはあるけど、商品レベルで実現するのはまだまだ先だろう。




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