テレビの色再現について


これこれでテレビの色温度についていろいろ書いてみたので、こんどは色再現について書いてみる。
テレビの色再現というと、たいていはカメラで撮影した対象と同じ色をテレビ画面上に再現することを意味すると思う。色再現性の良いテレビとは、より撮影対象に近い色を再現できる、という意味になる。
さて、最近はテレビの色再現性を向上させましたよ、と「広色域」を謳っているテレビがいろいろと出ている。x.v.Color(=xvYCC)対応というのもその一環。これらはようするに従来のテレビよりも再現できる色の範囲が広いですよ、ということを言っている。この再現できる色の範囲のことを「色再現範囲」と言ったりするのだが、色再現性と色再現範囲との関係は結構分かりにくいと思うので、まとめてみたいと思う。

色再現範囲とは

色域とも言われるが、一言で言うと「ディスプレイで表示可能な色の範囲」のこと。表示可能な色数とは違う。ここでいう色の範囲というのは、CIE色度図上で色再現範囲を図示したときの範囲のこと。範囲はたいてい三角形で表され、この三角形の内側にある色がディスプレイで表示可能な色ということになる。この三角形の面積が広いほどディスプレイの色再現範囲が広いと言われる。色度図の例は以下のリンクを参照。
ファイル:CIExy1931 sRGB CMY.png - Wikipedia
Loading site please wait...

CIE色度図とは

先のリンク先にあるような図で、世の中のすべての色を数値化して二次元座標にプロットしたもの。輝度は考慮されていなくて、色のみを考慮した図である。人間の目で見える色は色度図上で馬の蹄の形になっている領域の内側にあり、外周に近い方ほど色の純度(彩度)が高い。外周の色は光のスペクトルの色そのものになっている。

ディスプレイと色再現範囲の関係

色度図上で色再現範囲を表す三角形は、ディスプレイのRGB三原色の色度によって決まる。三角形の頂点がそれぞれ、そのディスプレイのR、G、Bの原色の色度を表している。ディスプレイはRGBの光を任意の比率で混ぜ合わせる事でいろいろな色を表示するが、混ぜ合わせた後の色は必ず三角形の内側にある。三角形の外側の色は、どうがんばってもそのディスプレイで表示することはできない。
したがって、三原色の純度(彩度)が高いディスプレイほど三角形が大きくなり色再現範囲が広い、ということになる。

色再現範囲と色数の関係

ディスプレイで表示可能な色数は、ディスプレイのビット幅で決まる。一般的な液晶テレビの場合、8bitのパネルが使われているので、色数は256*256*256=16777216色。ディスプレイの表示可能な色は、色再現範囲の三角形の内側に限られる。よって三角形の内側にある色のうち、16777216点の色を表示可能ということになる。
なので、ディスプレイの色数が同じで色再現範囲の広さが異なる場合、色再現範囲の広い方は点の密度が薄くなってしまう。あまりに色再現範囲が広い場合は、ディスプレイの表示ビット幅も大きくしないと色のグラデーションがきれいに出ない、などの不具合が起こる可能性がある。これに対処するためか、最近は10bitのパネルを使った液晶テレビも出始めている。

色再現範囲と放送規格

色再現範囲は放送規格によって決められている。色度図上でどういう三角形になるのかは、NTSCとかHDTVとかの規格で決まっている。このことから、ディスプレイの色再現範囲の広さを表すときに「NTSC比○○%」とか「HDTV規格○○%」と言ったりする。規格で決まっているので、本来はどのテレビも100%でないといけないと思うのだが、NTSC比の方はなかなか難しいようだ。
このパーセンテージは単純に三角形の面積の比を言っている。NTSCで決められている色の○○%を表示できる、という意味とは少し違う。三原色の色がNTSC規格とずれていても関係なく、単純に面積の大きさの比で○○%と言われる。

広色域とはどういうことか

広色域とはようするに、色再現範囲を表す三角形が従来のものよりも広いですよ、ということ。たいていは従来のディスプレイでは表示できなかった、純度の高い(彩度の高い)鮮やかな色も表示可能になる。
広色域ゆえに規格で定められた色再現範囲を超えているテレビも出ているが、こういう放送規格よりも広色域なディスプレイの場合、そのままでは規格で決められた正しい色よりも鮮やか過ぎる色で表示されてしまう。そのため広色域のディスプレイではカラーマネジメント的な色補正をしないと、従来の放送規格の色を正しく表示できないことになるので、そのあたりが信号処理的に難しい(従来の規格に合わせた映像が入力される場合。広色域にあわせた映像ならそのまま表示すればいい)。

色再現範囲と色再現性について

色再現範囲が広い=色再現性が良いと言えるかというと、必ずしもそうとは言い切れない。上記で述べたように、色再現範囲は放送規格で決められているため、その規格に合わせた色再現範囲のディスプレイでなければ正しい色で表示する事ができない。したがって、広色域なのはいいが規格とずれてしまっていては、本来表示されるべき色が表示されないので、色再現性が良いとは言い難い。
一方別の考え方では、色再現範囲が広い方が自然界に存在する色をよりたくさん表示する事ができるようになるため、ある意味色再現性が良くなっているとも取れる。
規格に合わせるのが良いのか、広色域にするのが良いのかは求める色再現性の方向によって変わる。色再現性といっても様々な種類があるので、規格に合わせるのも、広色域にしてより鮮やかな色を表示するのも、どちらも間違いではないといえる。規格に合わせるのは、実物の色を正しく再現しようという考え方の色再現。広色域の方は、実物に合わせるより、もっと好ましい色を表示しようという考え方の色再現、と考えられる。

まとめ

色再現性と一口で言っても、方向性はいろいろ。規格に合わせて忠実に色を表示するのを重視するか、見た目のきれいさや好ましさを優先するか、テレビメーカーによって考え方もいろいろ異なっていると思う。
選ぶ方の考え方としては、映像の作り手の意図に忠実な色を見たければ規格に合わせた色再現のものを、それよりも自分がよりきれいだと思う色を見たければ広色域な色再現のものを選べば良いのではないかと思う。
ともかく、どういうものが自分の好みに合っているかは、やはり実際にテレビの表示を自分の目で確かめるのがいちばんだけれど。