電子書籍で誰が幸せになれるのか?

前回電子書籍に期待されてることについて考えてみた。こんどは、そもそも人は何のために本を読むんだろう?という視点から、電子書籍は誰の役に立つのか、どんな市場なのか、を考えてみる。

そこで、本を読む目的は3つのレベルに分けられると仮定して考えてみた。
ひとつめは、情報を得るため。
ふたつめは、コンテンツを楽しむため。
みっつめは、本を読むという体験を楽しむため。

情報を得るために本を読む人

本に書かれている「情報」がすべて、というレベル。
単純に書かれている情報が欲しいのであって、それ以外のことはあまり重要でない。たとえば新聞とか、情報誌はこのレベル。基本的に、1回読んで必要な情報をゲットしてしまえばもう用済みになってしまうものがここのレベルに入ってる。
このレベルの人は情報を得ることが目的なのでそもそも紙の本である必要はなくて、もっと便利に情報を得られるものがあればそっちを選ぶはず。

コンテンツを楽しむために本を読む人

本に書いてある情報を得るだけでなくて、その「内容を楽しむこと」を目的にしているレベル。
「内容」は単に書いてあることの内容だけでなくて、そのレイアウトとか配色とかデザイン的なものも含むものとする。たとえば小説とか絵本とか漫画とか写真集とか、そういうものはここのレベル。
楽しむのが目的なので、気に入れば何度も読み返したりもする。
このレベルの人もコンテンツを楽しめれば紙の本である必要はなくて、電子書籍がコンテンツの楽しさを損なわず、かつ紙より便利と思えばそっちに移行できるはず。

体験を楽しむために本を読む人

本の内容だけでなくて、「本を読む」という行為そのものを楽しむレベル。
本としてのジャンルはあまり関係なくて、その人の好きなものを読む。内容がどうでもいいのではなくて、内容を楽しみつつ、紙の本を読む行為自体を楽しんでいる。「紙の手触りがいいんだ」とか、「ページをめくる感触が好きなんだ」という人はここのレベル。
そんな人いるのか?と思うかもしれないけど、適当にページをパラパラめくって雑誌を眺めたり、なんて行為はみんなやってるはずで、その延長上なんだと思えば全然いないってことはないと思う。「ディスプレイで文字を読むと疲れる」という人も、消極的理由ではあるけどこのレベルに入るかな。
紙の本を読むという「行為」が楽しみになっているので、紙の本から離れることはきっとない。

電子書籍に向いてるのは?

本を読む人を3つのレベルに分けてみたので、それぞれのレベルの人が電子書籍に向いてるかどうか考えてみよう。
1つめのレベルの人はそこそこ電子書籍向きではある。けど、情報を得るためには電子書籍である必要はべつにないので、もっと便利なメディアがあればそっちへ行ってしまうのでは。たとえばニュースを読むのにわざわざ電子化された新聞を読まなくても、ニュースサイトを見に行けば済むとかそういうこと。そっちの方が安いんだから、電子書籍をお金払って買うこともないし。レイアウトとかも気にしないので、電子書籍端末のちょっと大きめの画面も必要なくて、ケータイの小さめの画面でも別に問題ないし、タッチパッドでスムーズに拡大したり縮小したりの機能もなくても構わないのでは。

2つめのレベルの人はかなり電子書籍に向いてる。レイアウトなんかもそのまま固定された状態で読めれば、紙の本と変わらないコンテンツになるから、漫画みたいなものでも違和感なく読める。あと、気に入った本をいくらたくさん集めてもかさばらないという便利さもある。お金を払ってでも電子書籍を買いたい人はけっこう多いと思う。電子書籍が役に立つのはこのレベルの人だろうね。

3つめのレベルの人はあんまり電子書籍に向いてない。紙の本でないと楽しくないのだから、そもそも電子書籍じゃだめ。

電子書籍でみんなハッピー?

こうして考えてみると、電子書籍って紙の本の市場をそのまま置き換えられるものじゃなさそう、ということが言えると思う。
1つめのレベルの人は電子書籍である必要がない。そもそも既に本とか新聞の類を買わなくなっているかもしれない。新聞読まない人が増えてたりとか、雑誌の売り上げが落ちてたりとかの現象にも表れてると思う。だからここは電子書籍のコンテンツ、端末ともに大きな市場になりにくいんじゃなかろうか。
3つめのレベルの人は電子書籍に興味ないはずなのでここも市場にならない。
だから、電子書籍の市場は本全体の市場のうち、2つめのレベルの部分だけ、ということになるかな。

逆に紙の本の立場から見ると、3つめのレベルの人がいる限り紙の本が世の中から消えてなくなることはきっとない。けれど、1つめのレベルの人が本そのものから離れ、2つめのレベルの人が電子書籍に移行してしまえば、確実に市場は小さくなるわけで。3つめのレベルの人にしても、長期的に見れば紙の本の良さを知ってる世代がだんだん減っていくわけだから、紙の本の市場はこれからかなり厳しくなるんだろうな、という感じ。

まとめ

ここまで考えて、電子書籍化したからって本の市場が増えるわけじゃなさそうだってことが分かった。そもそも本を買ってない人たちが、電子化したからって買うようになるわけじゃ無いだろうし。徐々に縮小していく本の市場で、残った部分を電子書籍が侵食していくっていう構図かな。
あんまり「電子書籍でみんな幸せ」って感じではないよね。幸せなのは2つめのレベルのユーザーだけ、かも。売る側はそんなに幸せじゃないのかも。


次は、前回考えた電子書籍に期待されてることと、今回の内容を組み合わせて、電子書籍について考えてみる。

つづく




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