超薄型液晶の何がすごいのか?


CEATECで数社が展示していた超薄型液晶テレビ。実用的な壁掛けテレビとして使える可能性を持っていること、デザイン的に優れていること、超薄型を実現した技術力、などで注目されていると思われる。
ただ、PC用とか携帯電話の液晶モニタなんかは前からテレビよりだいぶ薄い。それらと同じ事をすれば超薄型もやってできない事はないのでは?という気はする。技術的に今まではなぜできてなかったのか?について考えてみる。

なぜ今まではそんなに薄くなかったのか?

液晶モニタと違い、テレビのパネルモジュールは厚みがそれなりにあったため。
液晶パネルのバックライトには、直下型とエッジライト方式の2種類がある。直下型は液晶パネルの直下、映像が表示されている真後ろにバックライトが配置されている方式。エッジライト方式はパネルの端にバックライトが配置されている(詳しくは下のリンクを参照)。バックライトは画面全体を均一に照らさなければならないが、バックライトから離れるほど光が弱まり暗くなるので、大型のパネルの場合は直下型でないと全体を均一に照らすのが難しくなる。つまり、液晶モニタは比較的小型で輝度も低いためエッジライト方式のバックライトでも良いが、テレビは大型で高輝度が求められるため、直下型でないと対応できない。
直下型の場合、次のような制約がある。

  • 液晶とバックライトの距離をある程度取っておかないと光がうまく拡散しない
  • 距離が近すぎるとバックライトの形が光って見えてしまいムラの原因になる
  • それを防ぐためにバックライトを増やせば、コストアップになる

したがって、従来は直下型のバックライトを使うためどうしてもある程度の厚みが必要だった。
「お客様との約束を積み重ねたい」――ナナオの液晶ディスプレイ説明会 (1/3) - ITmedia PC USER
液晶とは : バックライトの構造 -株式会社ツジデン
  
もうひとつ考えられるのは、回路基板の厚みがそれなりにあったこと。たとえば、電源基板にはコンデンサやらコイルやらの大型の部品が乗っていることが多く、あまり薄くならない。また、バックライトを駆動するためのインバータにも大きめの部品が乗っていてそれなりの厚みがある。チューナーも比較的大きな部品であり、薄くするための妨げになる。信号処理用のチップも数が多ければ基板を積み重ねる必要があったりと、薄くするのに障害となる。

どうして薄くする事ができたのか?

以上のことから、パネルを薄型化すること、回路基板上の部品を小さくして薄くする事が必要になる。それをどうやって実現したのかをCEATECでシャープ、ビクター、日立の各説明員に聞いてみたが、ほとんど教えてもらえなかった。ビクターだけは「バックライトを薄くした」と説明してくれたが。
ビクターの場合は、下のリンクにあるように、拡散効率を上げることでバックライトの薄型化を実現している。拡散効率が向上することで、液晶とバックライトの距離が近くなっても光を拡散させて均一に照らす事ができる。結果としてパネルを薄くする事ができる。光拡散フィルムを使うなどの工夫をしている事と思われる。
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20071002/ceatec05.htm
ビクター再建の切り札“プレミアムディスプレイ” - ITmedia NEWS
ビクターは一足先に「次世代液晶」 - ITmedia NEWS
液晶とは : バックライトの構造 -株式会社ツジデン

シャープ、日立は説明してくれなかったのでどういう方法をとっているのかは不明。ビクターと同じやり方かもしれない。他に考えられるのは、エッジライト方式に高輝度のバックライトを使って画面を均一に照らすくらいだろうか。できるかどうかはわからないが。
ともかく、光を効率よく拡散させる技術ができたことで超薄型のパネルができた、ということかと思われる。



一方、回路基板の方は小型の部品を選んで使う、部品点数をなるべく減らす等の工夫をすれば薄くする事は可能かもしれない。簡単ではないのだろうけど。
もしくは、回路基板を外付けにしてしまう方法も考えられる。日立のブースでは、電源基板は全て入ってるわけではなく、パネルの駆動に必要な電源基板のみ内蔵してるとの説明だったので、ある程度の部品は外付けになっているのかもしれない。電源基板を内蔵してなくて、ACアダプタが必要とか、スタンド部分に入っているとか。
ビクターは全て内蔵しているとの説明だったが、そのせいか最厚部は72mmとそれなりの厚みがある。やはり全ての部品を内蔵しての超薄型は難しいのかもしれない。日立とシャープは全体的に薄いが、一部の部品をスタンド内部などに入れてある可能性もある。どうなってるか聞いても教えてくれなかったので分からないが。

何のために薄くするのか?

超薄型のメリットは正直言ってデザイン性しかないように思う。壁掛けは配線の事や、一度設置したら簡単に動かせないなど考えるとあまり現実的でない気がする。
とはいえ、デザインを良くする事は差別化するのにもっとも効果的だろうから、やはり超薄型をやるだけの意味は十分あるのだろう。