おおそうじ

今日1日かけて部屋を徹底的に掃除する…つもりだった。けれど、そう、午前3時をまわった今になっても掃除なんていっこうに終わってやしない。
はじめはよかったんだ。朝起きて、顔洗って、朝食をとって、洗濯をして…。普段どおりの仕事をひととおり片付けたあと、そうじにとりかかった。ここまでは。
予定ではまず部屋にたまった不用品を片っ端から処分。次に背の高い棚の上など、普段掃除しないところのそこかしこにたまった埃を払い落とす。そしたら部屋の隅々まで雑巾がけをする。最後に床に掃除機をかけて終了。不用品の処分に時間がかかりそうではあったけど、狭いワンルームだから掃除はそれほど大変じゃない。1日あれば十分なはずだった。
まずは不用品の処分のために、その選別をする事にした。最初に手をつけたのは部屋の片隅に積み上げられていた雑誌の山。雑誌とはいえ、中には捨てるにはもったいないと思えるものもある。念のため雑誌をぱらぱらとめくりながら中身をチェックしていった。
…それが間違いだったんだ。気がつけばチェックしているだけのはずの雑誌を、1ページ1ページじっくりと読みふけっていた。そう、誰もが大掃除の最中に陥ると言う罠。ものの見事にそれにはまってしまったのだ。
すべての雑誌を選別し終わったときには、もうとっくに日がくれていた。その後は、着なくなった古着やら、小物類の選別を行っていったけれど、それが終わったとき時計は午前2時をまわろうとしていた。そしてそこで掃除をあきらめた…。
人からよく失敗談として聞かされる大掃除の罠。自分がそんなものにひっかかるわけがない、そう思っていた。ひっかかるまいと心に誓ってもいた。でも、あまりにあっけなくひっかかった。…なぜだろう?
たどり着いた結論は「それが人間の本能だから」。目の前にある嫌なもの、つらいものから目をそむけ、別の何かに没頭する。それはきっと自分の心を守るための防衛メカニズムのひとつなんだ。つらいものごとに直面したままずっと耐え続けられるほど、人の心は強くない。嫌なものから目をそむけ別の物事に打ち込むことも、人間が前に進むためには必要なことだったのだ。だからこそその本能が備わっている。その本能を獲得したからこそ、人間は自分の心を守ることができ、今日の繁栄を手にすることができたんだ。進化の過程で複雑な心を手に入れた人間は、同時にその複雑さのせいで、そういう心の防衛メカニズムなしでは生きていけない。そういう生き物になってしまったんだ。
多くの人が陥る大掃除の罠。それは人間が進化の末に手に入れた心。その代償。

…んなわきゃない(笑)